道善寺 (南砺市)

道善寺（どうぜんじ）

富山県南砺市（旧上平村）の新屋地区に静かに佇む道善寺は、真宗大谷派に属する寺院です。庄川を挟んだ対岸にある行徳寺と並び、高名な妙好人として語り継がれる赤尾の道宗（あかおのどうしゅう）と深い繋がりを持つ寺として知られています。かつて赤尾谷と呼ばれた地域の庄川東岸における、真宗信仰の中心的拠点を担ってきた重要な寺院です。

歴史と創建の物語

道善寺が位置する新屋地域には、古くから白山系の八幡信仰や熊野権現信仰に関わる史跡や記録が残されており、こうした日本古来の汎浄土的な信仰土壌の上に浄土真宗が広がっていったと考えられています。室町時代後半、文明年間（1469年〜1487年）に本願寺第8代宗主である蓮如が越前国（現在の福井県）の吉崎御坊に滞在したことは、北陸地方における真宗門徒の飛躍的な増加をもたらしました。この影響は五箇山地方にも及び、真宗が本格的に浸透し始めます。

五箇山に最初に教えを広めたのは、越前国の和田本覚寺でした。新屋を含む赤尾谷の多くの寺院は、この本覚寺を本山とする道場として出発しました。和田本覚寺の門徒の中には、赤尾谷出身の浄徳という僧侶がいました。この浄徳の甥こそが、後に妙好人として名声を得る赤尾の道宗（俗名：弥七）です。

赤尾の道宗ゆかりの寺としては、西赤尾の行徳寺が特に著名ですが、新屋の道善寺もまた道宗によって開かれたと伝えられています。「新屋道場由来記」によれば、中世の赤尾谷は、平瀬氏が治める新屋を中心とした庄川東岸一帯、角淵氏が治める西赤尾を中心とした庄川西岸南部、そして高桑氏が治める漆谷を中心とした庄川西岸北部の三つの地域に分かれていました。

由来記は、道宗こと弥七が平瀬氏の出自であるとし、長じて蓮如上人の教えを受け、角淵氏の支配する西赤尾に赤尾道場（後の行徳寺）を開いたと記しています。しかし、当時続いた戦乱により道場が破壊されることを案じ、改めて高桑氏の勢力範囲である庄川東岸の新屋に建立された道場が、現在の道善寺の前身であると伝えられています。また、新屋の山内権烝（ごんじょう）の息子である次郎右衛門という人物が行者として道宗と親交があり、道宗が晩年に蓮如から授かった本尊や名号（みょうごう）を次郎右衛門に託したものが、今日まで道善寺に受け継がれているとされています。

この「新屋道場由来記」に基づく寺伝は、行徳寺に伝わる伝承とは異なる部分も存在します。しかし、道善寺が所蔵する「弥七宛蓮如消息」や「天十物語」といった古文書は、戦国時代の五箇山を知る上で極めて貴重な同時代の史料として高く評価されています。特に、現存する蓮如上人の真筆がわずか56通とされる中で、そのうちの1通が道善寺に大切に保管されていることは特筆に値します。

天文21年（1552年）に作成された五箇山十日講起請文には、五箇山各村の有力者の署名がありますが、「新屋」という集落名を冠した人物の署名はありません。しかし、「赤尾谷」の筆頭署名者である「唯通重家」（ゆいつうじゅうけ）こそが、新屋道場、すなわち道善寺の祖ではないかとする見解も存在します。これは、赤尾行徳寺が既に寺号を有していたため署名者となりえず、次点として赤尾谷で二番目に大きな集落であった新屋の有力者が筆頭署名者としてふさわしいという推論に基づいています。

享保6年（1721年）には、本山から木仏（もくぶつ）を下付されると同時に「道善寺」という寺号が与えられました。しかし、その後も実質的には道場としての運営が続けられました。現在の本堂は文化8年（1808年）に再建されたものです。そして、昭和28年（1953年）6月、改めて「道善寺」として正式に寺号を公称するようになりました。

本覚寺下の道場として

前述のように、道善寺は越前国和田本覚寺を起源とする道場として始まりました。この地域では、周辺の赤尾谷や上梨谷のほとんどの寺院も、元々は和田本覚寺下の道場でした。戦国時代を経て本願寺が東西に分派した際、和田本覚寺下の道場は東方の小松本覚寺（後の真宗大谷派）と、西方の鳥羽野万法寺（後の浄土真宗本願寺派）にそれぞれ分かれ、この系譜は現代まで引き継がれています。道善寺は、東本願寺の流れを汲んでいます。

道善寺は、中世に庄川東岸一帯を支配した平瀬氏の勢力範囲を受け継いでおり、創建当初は新屋、真木、上野、中田、田ノ下、菅沼といった各村に門徒を有していました。しかし、享保年間（1716年〜1736年）には、上野村と中田村が共同で念仏道場（上中田念仏道場）を設けたことから、道善寺は新屋、真木、上野の三か村の寺となりました。これら三か村は、地域の信仰施設である宮（現在の東赤尾八幡宮）も共同で管理するなど、歴史的に非常に密接な繋がりを保っています。

道善寺は、赤尾の道宗という稀有な人物の足跡をたどる上で欠かせない場所であり、また五箇山における真宗信仰の伝来と発展、そして地域の歴史を理解するための貴重な史料や伝承を今に伝える寺院です。

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