郡山宿

郡山宿（こおりやましゅく）

江戸時代において、奥州街道（別称仙台松前道）に置かれた重要な宿場の一つであり、現在の福島県郡山市の中心部に位置していました。奥州街道は元々阿武隈川沿いに通っていましたが、慶長年間（1596年 - 1615年）に現在の西側のルートに改められて整備が進み、この地に郡山宿が設けられたとされています。

概要

郡山宿は、古くから交通の要衝としての役割を担い、奥州街道沿いに形成された宿場町でした。この街道のうち、郡山から南へ向かう道は「江戸道」、北へ向かう道は「仙台道」と呼ばれることが多く、これは街道の終点や主要な経由地の地名を冠することが一般的であったことに由来します。日本橋（江戸）から郡山までの距離は約56里（約219キロメートル）、郡山から仙台までは約35里（約140キロメートル）と、主要な都市を結ぶ中継地点でした。

郡山が宿駅として公式に認められるのは文政年間に入ってからとされていますが、江戸時代以前から、伊達政宗による商人の保護を受けながら、主要な門前町として商業的な性格を強く持っていました。江戸幕府によって奥州街道の整備が進むにつれて、宿場町としての機能も強化され、発展を遂げました。

元禄2年（1689年）旧暦4月29日には、俳人・松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅の途中で須賀川から乙字ヶ滝、守山を経て金屋の渡しを渡り、郡山で一泊しています。随行した曽良の日記には、「日ノ入リ前、郡山二到リテ宿ス。宿ムサカリシ（宿が取りにくかった）」と記されており、当時の郡山宿の賑わいや混雑ぶりがうかがえます。

歴史

伊達氏と郡山商人

天正16年（1588年）、伊達政宗が郡山の商人である山本伊勢に対し、領内の通行を許可する過所黒印状を発給した記録があります。山本伊勢は伊勢商人とされ、上方との物資取引に大きな力を持った商人が郡山にいたことは、この地が当時から商業経済の中心地であったことを示唆しています。

郡山村の開村と街道整備

郡山宿は、慶長9年（1604年）に徳川幕府の命により奥州街道が開設された際に、同時に開村したとする説が定説となっています。奥州街道は、正式には江戸日本橋から白河までを指し、幕府の五街道の一つとして道中奉行の管轄下にありました。一方、白河以北の三厩（現在の青森県）までは仙台松前道と呼ばれ、脇街道として勘定奉行の支配下でしたが、一般にはこれも奥州道中または奥州街道と総称されました。街道および宿駅の整備は、豊臣秀吉による奥羽仕置（天正18年～19年、1590年 - 1591年）に始まり、慶長9年には徳川家康の整備令を受けて、奥州街道も主要な脇街道として同様の基準で整備されました。江戸日本橋を起点とし、36町を1里（約4キロメートル）として1里ごとに塚が築かれ、道幅は5間（約9.1メートル）と定められ、街道の両脇には松並木が植えられました。

二本松藩の領内にあった宿駅としては、笹川、日出山、小原田、郡山、福原、日和田、高倉、五百川を渡った後の本宮、杉田、二本松、油井、二本柳、そして信夫郡の八丁目宿へと連なっていました。ただし、福原、高倉、油井は元和元年（1615年）以降に設けられた宿場です。

街道の松並木は、現在も主要地方道である須賀川・二本松線沿いの郡山市日和田や富久山地区の一部にその名残が見られます。市内では、小原田の北入口、久保田、日和田にあった一里塚は近代に失われましたが、久保田にはその跡を示す碑が建立されています。

宿場の機能

近世の宿場が担った主な役割は、幕府や各藩の公用荷物や商人の荷物の輸送に必要な人馬を提供すること、そして旅人に休息や宿泊の場を提供することでした。このため、宿駅には常に一定の人馬と宿泊施設を確保しておくことが義務付けられていました。

町への昇格と商業の発展

この地域では、年貢が米と銭で納める半石半永制が採られていたため、農民が現金収入を得るための定期市場が重要でした。市場が開かれる村は、各地から人や物資が集散する拠点となり、人口が増加するとともに交通量が増え、旅籠などが整備されて自然と在郷町として発展していきました。元禄年間には需要に応じて常設の店舗が増え、商売の機会を求めて他地域から移住する者も増加しました。郡山を拠点に活動した有力商人には、寛永年間から続く安藤忠助家、寛文年間に越前から移住した武田重蔵家、延宝3年（1675年）に尾張から移住した鴫原家などが知られています。

郡山村の人口は、安永6年（1777年）には2,514人でしたが、40年後の文化14年（1817年）には3,566人となり、1,000人以上の増加が見られました。こうした発展状況を踏まえ、村のままでは商売など諸事に不都合があると考えた宿役人らの陳情が認められ、文政7年（1824年）に郡山村は二本松藩から正式に町への昇格を許可されました。これにより公文書や商取引で「郡山町」と表記することが可能になり、町の地位を得たことで人口増加がさらに加速しました。町昇格からわずか3年後の文政10年（1827年）には人口が4,014人となり、慶應3年（1867年）には5,205人に達しています。

役札制度

郡山宿内で商売や製造業を営むには、藩に届け出て役金（税金）を納め、「御役札」（鑑札）の交付を受ける必要がありました。役札は年に2回（1月と7月）更新が行われました。役金の具体的な額は、宝暦2年（1752年）の改正で定められており、例えば真綿役は年間金2分、升屋役は年間1貫200文、紙札役（大店）は年間1両、背負い行商は2朱、糸釜役は1釜あたり70文など、多岐にわたる業種に課されていました。

事件と災害

各地の商人や近隣農民が頻繁に行き交い、物資が集散する場所として発展するにつれて、郡山宿では様々な治安上の問題が発生するようになりました。また、宿場町として整備が進み、参勤交代で大名が宿泊する機会が増えるにつれて、藩は村役人に対し、喧嘩の防止や火災予防などについて厳しい規制を課しました。

天保元年（1830年）から明治元年（1868年）にかけて、代官所に報告された事件だけでも、盗難17件、傷害13件、喧嘩（傷害なし）5件、死亡18件が発生しています。被害者・加害者の多くは領外からの者でした。盗難は宿場町に特徴的な犯罪で、空き巣、宿泊客からの金品盗難、盗品の質入れなどが見られました。特に、宿泊中の商人が回収した貸付金を盗まれるなど、領外の商人が標的となるケースが一般的でした。傷害事件は追剥や若者同士の喧嘩が多く、3件の死亡例を含みます。追剥は安積山付近や如宝寺前の大槻道、横塚道などで発生が知られています。死亡事件18件には、飯盛女との心中や、旅人の行倒れなども含まれています。代官所への報告件数には含まれていませんが、慶応2年（1866年）には、多田野原村の御霊櫃峠頂上の阿弥陀堂を拝観した会津藩士3名が、帰路の峠道で出会った商人を殺害し路銀を奪って逃走するという追剥事件も記録されています。

火災は合計31件発生しており、このうち付け火は1件、不審火は8件でした。出火原因が明らかなものでは、灰の不始末が最多の8件、残火や燈明からの出火が各3件、煙草の不始末が4件、針火（火打石など）からの出火が4件でした。記録に残る大規模な火災としては、文化4年（1807年）3月21日正午頃、上町の茶屋町にあった柏木長左衛門の稲屋から出火し、強風にあおられて上町・下町合わせて1996軒を焼失させた「駒出茶屋火事」があります。この火災では、郡山宿にあった郡山組各村の郷蔵も焼失し、保管されていた米713石余りのうち、約9割にあたる661石の米が失われる大きな被害が出ました。また、天保3年（1832年）1月28日には、14歳の子どもの火遊びが原因で如法寺の本堂床下から出火し、842軒を焼失させた大火も記録に残っています。

娯楽

文政7年（1824年）の町昇格を祝い、各町では祭りや山車の豪華さを競い合いました。特に中町や大町では、地方巡業の歌舞伎役者や芸者による手踊りを山車の上で披露する「屋台歌舞伎」が行われ、賑わいを呈しました。屋台歌舞伎は道路事情の変化などにより昭和38年（1963年）を最後に途絶えましたが、山車の一部飾りなどが現在も保管されています。

天保3年（1832年）9月16日には、郡山宿で恒例となっていた盆踊りが盛大に行われた記録が残っています。当時、盆踊りや祭りは民衆にとって数少ない息抜きの場であり、重要な社交の機会でした。そのため、遠方からでも参加するために足を運ぶ者もおり、近郷近在から多くの若者が郡山宿に集まって賑わいました。

主な名所・旧跡

安積国造神社：天和3年（1683年）に赤木町から遷宮。和久産巣日神、天湯津彦命、比止禰命、誉田別命を祀る。
如宝寺：真言宗の寺院。国の重要文化財である石造笠塔婆、板石塔婆、銅鐘を所蔵。
善導寺：浄土宗の寺院。正式には光明山護身院善導寺。
金透記念館：旧郡山尋常小学校の創立時の校舎を移築・復元した洋風建築。
阿邪訶根神社（あさかねじんじゃ）：猿田彦神、平忠通を祀る。福島県指定重要文化財の石造法華曼荼羅供養塔がある。
代官所跡：二本松藩の郡山、大槻、片平の代官所が現在のマギー陣屋駐車場の近くにあった。
皿沼水神祠：かつて灌漑用水池であった皿沼の跡に水神を祀る祠が残る。
大町道標：かつて木戸門があった大町に、文政8年（1825年）銘の「従是三春」と明治18年（1885年）銘の「左会津街道」の道標が立つ。

隣の宿場

江戸・白河方面：小原田宿
仙台・松前方面：福原宿

参考文献
[複数の文献が郡山宿の歴史、文化、事件、災害などについて詳細に記述している。主なものとして、『郡山市史』『郡山の歴史』、歴史資料館の企画展パンフレット、東北史学会の論考、各社の地名辞典や歴史書などが挙げられる。]

関連項目
郡山市歴史資料館
郡山まちなか文化遺産

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