郢曲

郢曲（えいきょく）についての詳細

郢曲とは、平安時代から鎌倉時代にかけて発展した日本の宮廷における音楽の一分野で、特に「歌いもの」として知られています。この名称は、春秋戦国時代の楚の首都郢で歌われた歌謡に由来しており、当初は卑俗な歌いかたを指していたとされます。最初は宮廷での朗詠や催馬楽、神楽歌、風俗歌などの総称でしたが、平安中期になると今様もその範疇に含まれるようになり、さらに幅広い歌謡一般を指す用語へと成長しました。

特に平安末期からは、神歌や雑芸、さらにはさまざまな特徴を持つ歌謡が取り入れられるようになり、より多面的な形になってきました。最狭義には朗詠を指すことが多く、宮中の節句に行われる酒宴「殿上淵酔」では、これらの歌謡が特に重要な役割を果たしました。このような催しは、1月7日や3月3日、5月5日、7月7日、9月9日の節句に行われ、その期間の歌謡は「五節間郢曲」と呼ばれていました。

12世紀には、『郢曲抄』という書物が成立し、これは今様を愛した後白河法皇にちなむと言われています。この時代の宮廷では、雅楽を演奏する特定の家系、いわゆる堂上楽家が代々音楽を承継する傾向が強まりました。その中で、郢曲は特に藤原家や源家といった著名な家系によって保持されていきました。藤原家の中でも藤原頼宗の子孫たちが郢曲の流派を制定し、源家もまたこの音楽を伝承しました。

鎌倉時代に入ると、郢曲は武士階級にも広がり、今様を受け継いだ早歌という新しい形態の歌謡が登場しました。早歌は長編の歌謡であり、武士たちが愛唱しました。その内容は『源氏物語』や様々な古典文献に基づいており、武家独自の視点や美意識を反映するものでした。特にこの時代の音楽は、後の曲舞や能楽の成り立ちに大きな影響を与えたと考えられています。

源家と藤家は郢曲の伝承において重要な役割を果たしましたが、室町時代中期には藤家が断絶してしまいました。現在では、源家の流れを汲む綾小路家がその伝承を続けている限りです。

現代においても、郢曲はその影響を受けながら進化し続けており、1973年には伊福部昭による「鬢多々良」が作曲され、現代の視点からもその魅力が再評価されています。このように、郢曲は日本の音楽史の中で重要な役割を果たし続けている文化遺産と言えるでしょう。

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