酒泉竹軒

酒泉竹軒（さかいずみ ちくけん）

酒泉竹軒は、江戸時代に活躍した儒学者であり、水戸藩彰考館の総裁として『大日本史』の編纂に深く関わった人物です。彼の生涯は、学問への情熱と、多岐にわたる才能の発揮によって彩られています。

生涯

幼少期から遊学

承応3年（1654年）、竹軒は筑前国福岡（現在の福岡県）において、浪人・堤正直の次男として生まれました。幼くして父を亡くし、母の手で育てられます。9歳で書を学び始め、寛文10年（1670年）には江戸へ出て、前橋藩の酒井忠清や藤堂和泉守といった人物と交流を持ちました。

延宝5年（1677年）頃には長崎に赴き、唐通事の本木家に滞在しながら病気の治療を受け、周麟に書道を学びました。また、清人から中国語や唐様の書道を学び、唐通事の彭城仁左衛門・仁右衛門、深見玄岱らと交流を深めます。数年後には京都へ上り、貞享2年（1685年）に伊藤仁斎に入門しますが、仁斎が多忙であったことや生活の見通しが立たなかったことから、貞享3年（1686年）に江戸へ戻り、壬生藩の三浦明敬に仕えました。

水戸藩への出仕と『大日本史』編纂

元禄2年（1689年）、今井元昌が水戸藩に出仕したのに続き、元禄4年（1691年）に竹軒も佐々宗淳の推薦で水戸藩彰考館の右筆となり、『大日本史』の編纂に携わります。六国史を講読するなど、その学識を活かしました。元禄8年（1695年）には大番組に入り、元禄9年（1696年）には西山荘で徳川光圀に近侍し、『洪武正韻』の研究を命じられ、『洪武聚分韻』の編纂に着手しました。

元禄11年（1698年）に水戸彰考館が設置されると水戸へ赴任し、元禄12年（1699年）には総裁に就任しました。元禄13年（1700年）には小納戸役も兼務します。光圀の死後、『義公行実』の編纂にも関わりました。宝永4年（1707年）には江戸彰考館の総裁となり、宝永5年（1708年）には小姓頭を兼ねました。正徳元年（1711年）には朝鮮通信使の応接にも関わるなど、多忙な日々を送ります。正徳5年（1715年）に『大日本史』の本紀・列伝が完成すると、志類と本紀・列伝続編の編纂を建白しますが、反対に遭い実現には至りませんでした。

晩年と死後

享保2年（1717年）、徳川綱条への講経後、中風に倒れ、左半身が麻痺します。その後、火災で自宅を失い、避難生活を送りました。享保3年（1718年）に小石川壱岐坂の自邸で死去し、伝通院末見樹院に葬られました。大正4年（1915年）には、その功績を称えられ正五位が追贈されています。

著書

竹軒は、多くの著作を残しました。

江都聞見録: 寛文10年（1670年）に江戸へ出た際の見聞記。
竹軒遺集: 享保年間に成立した著作集。
竹軒外集: 享保年間に成立した著作集。
竹軒遺稿: 明治24年（1891年）に酒泉彦太郎が編集した著作集。
言志集: 元禄元年（1688年）に成立した著作集。
象奎知源録: 長崎時代の作。漢字の書体の由来を考察。
明語要録: 長崎時代の作。中国語の単語帳。
助語考: 長崎時代の作。中国語の助辞の用例集。
達而和名: 京都時代の作。中国語の単語を検討し、日本語での用例と比較。
巳年中留書: 正徳3年（1713年）に成立。
犬吠集
切磋集
二十二社奉幣考

また、『大日本史』では、平敦盛・経盛、平清盛、伊東祐親・祐清・祐経、平将門・藤原純友らの列伝を自ら執筆しました。

門人

中島通軒

家族

竹軒の先祖は肥前国松浦郡出身で、源姓堤氏を称していました。曾祖父の堤大隅守は肥後国へ移り、祖父、父へと続きます。母は栗野氏であり、弟の堤藤三郎勝久は祖母の実家である池田氏を継ぎました。竹軒には、石松という息子がいましたが、9歳で夭折しました。娘も3人いましたが、皆夭折しています。弟の子である酒泉文蔵輝を養子に迎えました。

酒泉竹軒は、激動の時代において、学問に真摯に向き合い、その才能を多方面に発揮した人物でした。彼の残した業績は、今日においても高く評価されています。

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