醢落尸逐鞮単于

醢落尸逐鞮単于（かいらくしちくていぜんう）

醢落尸逐鞮単于（生年不詳 - 56年）は、後漢時代の南匈奴の初代単于です。称号は醢落尸逐鞮単于、姓は攣鞮氏、名は比といいます。祖父である呼韓邪単于にあやかり、自身も呼韓邪単于と名乗りました。湖邪尸逐侯鞮単于の父にあたります。

生涯

烏珠留若鞮単于の子として生まれました。

18年、叔父である呼都而尸道皋若鞮単于が即位すると、比は右薁鞬日逐王となり、南部国境地帯および烏桓の統治を任されました。呼都而尸道皋若鞮単于の即位に際し、その弟の右谷蠡王伊屠知牙師は順位からすれば左賢王になるべきでしたが、単于は自分の子に位を譲りたかったため、伊屠知牙師を殺害しました。このことを知った比は、「兄弟の順序からいえば右谷蠡王が立つべきであり、子の順序からいえば先代の子である自分が立つべきだ」と不満を抱き、単于に対し警戒心を抱き、単于庭の集会にもほとんど出席しなくなりました。単于は比を疑い、2人の骨都侯を派遣して、比が統率する兵を監視させました。

46年、呼都而尸道皋若鞮単于が死去し、子の左賢王烏達鞮侯が立ちましたが、まもなく死去し、その弟の左賢王蒲奴が単于となりました。比は単于になれなかったことを憤慨し、恨んでいました。折しも、匈奴国内は連年の旱魃と蝗害に見舞われ、荒地は数千里に及び、草木は枯れ、人や家畜は飢え病み、多くの国民が死亡しました。蒲奴単于は漢がこの機に乗じて攻めてくることを懸念し、先に漁陽郡に使者を送り和親を求めました。そこで後漢朝廷は中郎将の李茂を派遣して返答を伝えさせました。一方、比は密かに漢人の郭衡を派遣し、匈奴の地図を献上しました。

47年、比は西河太守のもとに赴き、後漢への内附を申し出ました。2人の骨都侯は比の真意を見抜き、5月の龍祠（匈奴の国会）に参列した際、単于に比が謀反を企んでいると伝えました。この時、比の弟の漸将王がこれを聞き、すぐに比に知らせました。比は支配下の南辺八部の4〜5万人を招集し、両骨都侯が帰ってきたら殺そうと待ち構えました。しかし、両骨都侯は事前にこのことを察知し、単于に報告したため、単于は1万騎を派遣して比を討たせましたが、比の軍勢が強かったため、引き返しました。

48年、八部の大人（部族長）たちは協議し、比を呼韓邪単于として擁立することを決定しました。比は五原塞に来て、永く漢の防壁となり、北方民族を防ぎたいと願い出ました。後漢の光武帝は五官中郎将の耿国の意見を採用し、これを許可しました。その冬、比は匈奴から自立して呼韓邪単于となり、これにより匈奴は南北に分裂し、従来の匈奴は北匈奴、比の建てた匈奴は南匈奴と呼ばれるようになりました。

49年、南単于比は弟の左賢王莫を派遣し、1万余人の兵で北単于の弟である薁鞬左賢王を攻撃させ、これを生け捕りにし、北単于庭を破ってその民衆1万余人、馬7千匹、牛羊1万頭を獲得しました。北単于は1千余里も後退しました。北匈奴の薁鞬骨都侯と右骨都侯は部衆3万余人を率いて南単于に帰順してきました。南単于比は再び後漢朝廷に使者を送り、臣下の礼をとり、過去の和約を復活させたいと願い出ました。

50年、後漢朝廷は使匈奴中郎将の段郴・副校尉の王郁を派遣し、南単于庭を五原郡の西部塞の80里の地点に設置させました。この時、単于比は漢の使者を迎えた際、使者から「単于は当然、拝伏して天子の詔を受けるべきだ」と言われ、しばらく躊躇しましたが、最終的には拝伏しました。通訳が伝えるところによると、「単于は新たに位についたばかりなので、左右の臣下に対し恥ずかしく、衆中では屈辱的な礼をさせないでほしい」ということでした。骨都侯らもこれを見て涙を流したといいます。段郴が帰朝して朝廷に報告すると、南単于は雲中郡に入居することを許可されました。それ以降、南単于比は毎年年末になると、使者を送って上奏文を奉り、侍子を入朝させるようになりました。北匈奴の襲撃があったため、詔により南単于は段郴・王郁の護衛のもと、西河郡美稷に移住し、韓氏骨都侯を北地郡に、右賢王を朔方郡に、当于骨都侯を五原郡に、呼衍骨都侯を雲中郡に、郎氏骨都侯を定襄郡に、左南将軍を雁門郡に、栗籍骨都侯を代郡に駐屯させました。

56年、醢落尸逐鞮単于は在位9年で死去しました。使匈奴中郎将の段郴は弔問に赴き、酒と米を供え、兵を分けて葬儀を護衛しました。比の弟の莫が南単于の位に就き、後漢の皇帝は使者を送り、璽を印した書を持たせて慰撫し、璽綬を送り、冠・幘・絳単衣3着・童子佩刀・緄帯各1を送りました。また、繒・彩四千匹を賜って諸王・骨都侯以下に賞賜させました。それ以降、単于が死去した際の弔祭・慰賜はこれを常例としました。

参考文献

* 『後漢書』（南匈奴列伝）

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