釜ヶ崎

釜ヶ崎

釜ヶ崎（かまがさき）は、かつて大阪府西成郡今宮村（後の今宮町）にあった「字（あざ）」としての地名、および現在、その一帯を指す地域通称です。

現在の主な範囲は、JR西日本の大和路線（関西本線）の線路より南側、西成区の萩之茶屋一丁目・二丁目の各一部を指しますが、歴史的には同線より北側、現在の浪速区の一部地域も含まれていました。この地域はいわゆる「あいりん地区」と重なり、しばしばその通称としても用いられます。

字としての「釜ヶ崎」という地名は、1922年（大正11年）に今宮町が町域内の大字を再編成した際に廃止されました。しかし、その後もこの地域を示す通称として、「釜ヶ崎」あるいは略して「釜」と呼ばれることが少なくありません。一方、「あいりん（愛隣）地区」という名称は、1966年（昭和41年）5月に、行政機関と報道機関がこの地域を指す際の統一名称として使い始めたものです。これは概ね「釜ヶ崎」の別称として扱われます。

名称の由来

釜ヶ崎の地は、江戸時代に干拓によって誕生した低湿地でした。名称の由来にはいくつかの説があります。

かつてこの付近にあった入江が船の発着場となっており、その南側が釜ヶ崎と呼ばれたとする説。
藻塩を焼くための塩焼き釜があったという説。
岬の形状が釜の形をしていたという説。

これらの他にも、日雇労働者への炊き出しに用いた釜に由来するという説も存在しますが、これは俗説とされています。釜ヶ崎という呼称は、日雇労働者がこの地に集積する以前から使用されていたためです。

歴史

江戸時代

現在の萩之茶屋周辺は、旧淀川の分流である木津川の河口域に位置し、西入船町や東入船町といった旧町名がその名残を示しています。かつては低湿地でしたが、江戸時代にかけて干拓され、新たな土地として開発が進みました。

江戸時代には、紀州街道にあたる堺筋沿いの長町（ながまち、現在の日本橋でんでんタウン付近）に多くの旅籠や木賃宿が軒を連ねていました。長町は一時的な滞在場所として機能する一方、次第に失業者の滞留地の性格を帯びるようになります。そして、長町の東西に隣接する天王寺村、難波村、今宮村の一部にあたる「長町裏」と呼ばれる一帯に、大坂最大規模のスラム街が形成されました。長町の東側、現在の浪速区下寺三丁目の合邦ヶ辻（がっぽうがつじ）周辺には無宿人があふれていたと伝えられています。文久元年（1861年）には、長町に窮民を収容する救小屋が設置されました。明治19年（1886年）の最盛期には、長町界隈だけで2291戸の木賃宿に6873人が居住していたとされます。同時期には「長屋建築規則」に基づき、老朽化し不衛生だった長町裏の木賃宿などが行政によって取り払われ、9000人以上が立ち退き、2400戸以上が取り壊されるなど、行政による介入も始まりました。

明治・大正時代

長町界隈ではコレラが流行し、多くの発病者が出たことから、衛生面だけでなく、治安や都市計画の観点からも長町裏スラムは大きな問題となりました。明治30年（1897年）、大阪市の第1次市域拡張が行われ、難波村の全域と、天王寺村・今宮村のそれぞれ大阪鉄道（現在のJR関西本線）以北が大阪市に編入されました。翌明治31年（1898年）に大阪市域での木賃宿営業が禁止され、さらに明治36年（1903年）、現在の天王寺公園や新世界の一帯を会場として第5回内国勧業博覧会が開催されるのに先立ち、長町裏スラムは一掃されることになります。このとき、大阪市域を逃れた木賃宿やスラムの住民たちが移住した先が、市境のすぐ南に位置する今宮村の釜ヶ崎でした。

釜ヶ崎の周辺では、明治45年（1912年）に新世界、大正5年（1916年）に飛田遊廓が誕生するなど、次第に市街化が進みました。大正6年（1917年）には今宮村が町制を施行して今宮町となります。大正11年（1922年）、今宮町が従来の大きな字を細分化し、字としての釜ヶ崎は廃止されましたが、その後も通称としてこの地域を指し続けました。そして大正14年（1925年）、大阪市の第2次市域拡張により、今宮町は大阪市に編入されることになります。

昭和〜現代

大正後期から昭和初期にかけて「大大阪時代」として隆盛を極めた大阪でしたが、昭和恐慌を経て第二次世界大戦が勃発し、戦災により広範囲が焼け野原となりました。釜ヶ崎一帯も大きな被害を受け、多くの住民が被災しました。戦後、大阪市では1947年（昭和22年）以降、日本社会党系の市長が続き、その後も社会党と自由党などが相乗りする市政が継承されました。こうした中で、浮浪者対策や貧困対策が重視された経緯があり、西日本各地の貧困層や浮浪者層が次第に大阪市に集まるようになります。彼らは市内にいくつかの日雇労働者の宿泊地（ドヤ街）を形成しましたが、やがて釜ヶ崎一帯に集約されることで現在に至る地域特性が形作られました。

1959年の調査によると、当時の釜ヶ崎の居住者のうち定職を持つ者は4割、移動労働者が4割、無職者が2割を占めていました。また、居住者は世帯を持つ者、単身の壮年・中年男性、反社会的な集団、障害や高齢により細々と暮らす人々といった四つの層に分類できる状況でした。

1961年（昭和36年）8月、老年の日雇労働者が交通事故で亡くなった際、警察の対応に不備があったことが発端となり、第一次釜ヶ崎暴動が発生しました。8月1日から4日にかけて労働者と警察官隊が激しく衝突し、1名の死者と約600名の負傷者を出しました。この事件と同時期に、釜ヶ崎の抱える問題に対する対策が発表され、西成保健所分室や市立愛隣会館といった福祉施設の整備と拡充、市立愛隣寮や市立今池生活館などの施設による住宅対策が推進されました。大阪万博が開催された1970年（昭和45年）には、現在のあいりん労働福祉センターが設置されています。このセンターが設置される以前は、その南側の場所が賭博などが行われる場所として使われており、日雇労働者の集まる場所はそこから少し西にずれた場所にありました。

現在においても、「釜ヶ崎」という呼称は、上述の通り「あいりん地区」の別称として用いられるほか、地域に根ざした言葉や慣習に関連して「釜ヶ崎用語」のような形で使われています。

関連施設・名所

新今宮駅：JR西日本、南海電気鉄道の駅。
新今宮駅前停留場：阪堺電気軌道の停留場。
今宮戎神社：浪速区に位置し、「十日戎」で知られます。
釜ヶ崎銀座：現在の西成警察署の前あたりが、区画整理前にこの名で呼ばれていました。
大阪救霊会館

また、安居神社（やすいじんじゃ）には、菅原道真が大宰府へ流される途中に風待ちをしたのが現在の安居神社であり、船に乗った場所が釜ヶ崎であるという伝承が残されています。

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