長尾景仲

長尾景仲（ながお かげなか）は、室町時代中期に活躍した武将であり、関東地方で強大な勢力を誇った山内上杉家の重臣として家宰を務めました。また、上野国と武蔵国の守護代を兼任し、現在の群馬県にあたる上野国群馬郡の白井城を本拠地としました。

景仲は、同じく山内上杉家の家臣であった太田道真と共に、「関東不双の案者」、すなわち関東に二人といない優れた知恵者として広く知られていました。彼の采配と戦略は、激動する関東の情勢の中で、山内上杉家を支える重要な柱となりました。

その血筋は、鎌倉長尾氏の長尾房景の次男として生まれ、母は白井長尾氏の長尾清景の娘でした。母方の伯父である長尾景守の養子となり、白井長尾氏の家督を継承しました。わずか14歳であった応永8年（1401年）に養父の死去に伴い、上杉氏の重鎮である白井長尾氏の当主となります。当時の山内上杉家家宰であった長尾忠政と共に主君の上杉憲定を補佐し、以降、実に5代にわたる上杉氏当主に仕えることとなりました。

歴史的な転換点となった出来事として、応永23年（1416年）に発生した上杉禅秀の乱では、由比ヶ浜の戦いにおいて上杉禅秀の軍勢を打ち破る功績を挙げ、主君である関東管領・上杉憲基と鎌倉公方・足利持氏を鎌倉へ無事帰還させました。

さらに、永享10年（1438年）に鎌倉公方・足利持氏が関東管領・上杉憲実を討伐しようとして勃発した永享の乱では、長尾忠政が憲実を上野平井城に迎え入れ、持氏討伐の兵を挙げた際に、景仲は副将格としてこれに加わりました。この戦いで忠政が持氏を捕縛した際にも功を立て、続く結城合戦においても重要な役割を果たしました。

文安元年（1444年）、長尾忠政が家宰の職を退き、関東管領・上杉憲実が隠遁生活に入った後、景仲は新たな役割を担うことになります。憲実に代わって山内上杉家の当主を兼ねることになった越後国守護・上杉清方（上条上杉家）の求めに応じ、山内上杉家の家宰に就任しました。

しかし、同年中に清方が急死し、憲実も隠遁を続けたため、永享の乱で廃絶された鎌倉公方に続いて関東管領の地位も空席となり、関東地方の政治は停滞しました。この事態に対し、景仲は娘婿であり扇谷上杉家の家宰であった太田資清（道真）と連携し、憲実の長男・竜忠（上杉憲忠）を擁立して関東管領の職を継承させます。これは、いとこの佐竹実定に家督を継がせようとしていた憲実の意向に反するものであり、景仲は憲実・実定派を退けて憲忠を支える立場を明確にしました。

ところが、足利持氏の遺児である永寿王丸（後の足利成氏）を新しい鎌倉公方として迎え入れようとする動きが、清方の後を継いだ越後守護・上杉房朝や他の関東諸将の間で起こり、室町幕府もこれを認めました。文安4年（1447年）、永寿王丸と関東管領となった憲忠は鎌倉に入り、宝徳元年（1449年）には永寿王丸が元服して足利成氏と名乗り、正式に鎌倉公方に就任します。しかし、成氏が永享の乱や結城合戦で滅ぼされた鎌倉公方家に殉じた武将たちの遺児を側近として重用するようになると、上杉氏とその家臣団からの反発が高まっていきました。

宝徳2年（1450年）には、足利成氏の命令を受けた簗田持助によって、相模国鎌倉郡長尾郷が押領される事件が発生します。この地は長尾氏の発祥の地であり、一族の祖先を祀る重要な場所でした。この出来事に長尾景仲をはじめとする長尾氏一族は激しく憤慨し、成氏に強く抗議しましたが、成氏側は要求に応じませんでした。

同年4月20日、景仲と太田道真は鎌倉に500騎の兵を入れて挙兵を企てました。しかし、この情報が事前に成氏に漏れたため、成氏はその夜のうちに鎌倉を脱出し、江の島に籠城します。翌日、由比ヶ浜で両軍は衝突しましたが、長尾・太田軍は惨敗を喫しました。さらに、事情を知らなかった主君・憲忠が、成氏救出のために小幡氏らを出陣させていたことが判明したため、景仲と道真は、道真の主君である前扇谷上杉家当主・上杉持朝の糟谷館へ逃れました。憲忠自身はこの企てに一切関与していませんでしたが、襲撃したのが長尾・太田の兵であると知り、謹慎してしまいます（江の島合戦）。

その後、成氏は鎌倉に戻り、憲忠も10月に職務に復帰しました。憲忠の懇願により、景仲たちの罪も赦免されました。しかし、その後も成氏方と憲忠方双方の武士による所領の押領事件が頻繁に発生し、両者の対立は深まる一方でした。このため、憲忠と持朝は成氏打倒の計画を進めます。しかし、享徳3年12月27日（1455年1月15日）、景仲が長尾郷の御霊宮に泊まりがけで参詣に出かけていた夜に、主君である憲忠は足利成氏の御所において、成氏方の軍勢によって討たれてしまいました。この時、江の島合戦後に景仲から家宰職を引き継いでいた義兄弟の長尾実景も、その嫡男である景住と共に成氏方の襲撃を受けて殺害されました。

憲忠暗殺の報に接した景仲は、直ちに鎌倉に戻りました。彼はまず管領屋敷に火を放ち、憲忠の正室（上杉持朝の娘）を含む生存者を上杉持朝の糟谷館へ避難させました。糟谷館に到着した景仲は、持朝ら上杉一族の重鎮たちと協議し、京都にいる憲忠の弟・房顕を新たな関東管領として迎え入れ、足利成氏を討伐することを決意します。景仲はすぐさま自身の領国である上野へ戻り、兵を集めると同時に、越後守護・上杉房定に使者を送って援軍を求めました。また、嫡男である長尾景信を直接京都へ派遣し、幕府に事の次第を報告させ、房顕の迎立を依頼しました。そして、長尾実景とその子景住の殺害によって空席となっていた山内上杉家の家宰の地位に、再び就任することとなりました。

康正元年（1456年）に入ると、足利成氏は上杉氏の本国である上野を攻略するため、鎌倉を出て武蔵府中の高安寺に入りました。この報を受けた景仲は、直ちに上野・武蔵の兵を率いて府中へ向け出陣しました。上杉一族の他の者たちもこれに合流すべく出陣しましたが、1月21日に行われた分倍河原の戦いにおいて、上杉軍は足利成氏軍に大敗を喫しました。この戦いで、扇谷上杉家当主・上杉顕房や犬懸上杉家の上杉憲秋といった名だたる武将を多数失いました。難を逃れたのは景仲ただ一人であり、彼は残った兵を辛うじてまとめて常陸国小栗城まで落ち延びることが精一杯でした。しかし、閏4月にはその小栗城も成氏軍によって攻め落とされ、景仲は上野へと退却しました。一方、成氏も上杉氏救援のために駆けつけた今川範忠によって鎌倉を追われ、下総国古河城を根拠地として古河公方と称するようになります。ここに、関東地方を二分する大乱である享徳の乱が本格的に展開されることになりました。

その後も戦いは関東各地で続きましたが、長禄3年（1459年）の上野・羽継原の戦いでは、上杉軍の中核として奮戦し、足利成氏軍を打ち破るなど活躍を見せました。この頃には、太田道真と並んで「東国不双の案者」であると、『鎌倉大草紙』などに記されています。

景仲は寛正4年（1463年）、鎌倉で76歳の生涯を閉じました。彼は関東管領上杉氏と白井長尾氏の発展のために力を尽くした生涯でした。彼の死後、嫡男の長尾景信が家宰職を継承し、山内上杉家を主導して足利成氏との戦いを継続していきました。

また、景仲は宝徳2年（1450年）に雙林寺を開基したと伝えられており、現在もそこに彼の木像が安置されています。

彼の生涯は、室町時代中期の関東における上杉氏と鎌倉公方の激しい対立、そしてその中で知略をもって一族と主家を支えた武将の姿を今に伝えています。

もう一度検索