長尾邦景

長尾邦景

長尾邦景（ながお くにかげ）は、南北朝時代から室町時代中期にかけて活躍した武将であり、越後国の守護代を務めた人物です。越後長尾氏の第三代当主として、その権力を確立しました。

越後守護代としての台頭

長尾高景の嫡男として生まれた邦景は、元中六年（康応元年、一三八九年）に父が高景が佐渡遠征中に亡くなった後、家督を継承しました。当時の越後国の守護であった上杉家当主は、しばしば京に滞在することが多く、その結果、守護代である越後長尾氏に権力が集中する傾向がありました。これにより、守護は実権を取り戻そうとし、一方の守護代は現地の実情を把握していることから、両者の間には絶えず緊張関係が生じました。

特に応永年間末には、その対立が激化し、ついには室町幕府が越後守護・上杉頼方に対し、越後国内の武士たちに邦景を討伐せよという命令書（御教書）を発布するという重大な事態に発展しました（これを「越後応永の大乱」と呼びます）。

上杉憲実への接近と関東情勢への関与

このような状況下で、邦景は越後上杉家から次第に距離を置き、宗家である山内上杉家に入り関東管領を務めていた上杉憲実（越後守護頼方の弟にあたります）への接近を図り、その勢力圏に入ります。邦景の嫡男である実景の名にある「実」の字は、憲実から与えられたものとも伝えられています。その後、幕府の管領であった畠山満家の支援を得て、かつての守護であった上杉朝方（頼方や憲実の兄）の遺児である房朝を新たな越後守護として擁立することに成功し、上杉頼方を失脚させるに至りました。


憲実が鎌倉公方である足利持氏と対立した際には、邦景は憲実を強く支持しました。正長元年（一四二八年）には、第六代将軍足利義教に対し、持氏の動向が看過できない状況にあると報告を行っています。その結果、同年十一月には義教から管領畠山満家を通じて感謝の意を示す太刀が贈られました。さらに永享七年（一四三五年）には、邦景自身が上洛し、義教に持氏討伐の必要性について意見を述べました。

やがて憲実と持氏の対立が決定的なものとなり、永享の乱、そしてそれに続く結城合戦が相次いで発生すると、邦景は憲実を支援するために援軍を派遣しました。特に結城合戦においては、結城氏討伐の命を受けた越後守護上杉清方の補佐として、嫡男の実景や有力国人である色部重長らを伴わせて出陣させました。この時の越後上杉軍の活躍は目覚ましく、邦景と子の実景は将軍義教からその功績を高く賞賛されました。

最期と予見された混乱

しかし、房朝の死後、後を継いで越後守護となった上杉房定は、宝徳二年（一四五〇年）に本拠地を京から越後へ移し、邦景の勢力を抑え込もうと図ったため、両者の間に新たな対立が生じます。この時、房定は他の上杉一族の意向を無視して、かつて敵対した足利持氏の子である永寿王丸（後の足利成氏）を次の鎌倉公方に擁立しようと画策していました。

これに対し邦景は、持氏の遺児である永寿王丸は、自らの父を滅ぼした上杉一族に恨みを抱いており、彼を復権させることは憲実をはじめとする関東の上杉一族を危険に晒すことになる、と強く諫言しました。しかし房定は、邦景の発言を山内上杉家の後ろ盾を得て主君である自分を軽んじていると受け止め、宝徳二年十一月十二日、邦景を捕らえて切腹を命じました。

邦景の死後、子の実景は信濃国に追われましたが反乱を起こし、最終的には攻め滅ぼされました。これにより、越後守護代の地位は邦景の甥にあたる庶流の長尾頼景へと移りました。しかし、邦景が危惧した事態は残念ながら的中します。房定の後ろ盾で鎌倉公方に就任した成氏は、関東管領であった上杉憲忠（憲実の子）を「父の仇」として殺害し、上杉氏討伐の兵を挙げました。これが、長期にわたる享徳の乱の始まりとなり、邦景の諫言が結果的に正しかったことが証明されることになったのです。

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