長登銅山

長登銅山：古代から近代まで続く日本の鉱業遺産

長登銅山は、山口県美祢市秋吉台の南東に位置する銅鉱山です。7世紀末から8世紀初頭にかけて銅の採掘が始まり、1960年（昭和35年）に閉山するまで、実に1200年以上にわたって断続的に操業されました。特に奈良時代には、東大寺の大仏の銅の供給源であった可能性が高いことが知られ、日本の歴史に大きな足跡を残した鉱山として注目されています。

長登銅山の歴史

古代（7世紀末～10世紀）： 長登銅山の操業開始は、7世紀末から8世紀初頭と推定されています。奈良時代から平安時代にかけては、律令国家によって運営される長門国直営の鉱山として、銅と鉛を産出しました。これらの金属は、和同開珎などの貨幣鋳造や東大寺の大仏の製作など、国家的な事業に利用されたと考えられています。この時代の長登銅山からは、採掘や製錬の遺構に加え、730年前後の木簡など、貴重な出土品が多数発見されています。木簡からは、鉱山経営に関する情報や、当時の社会構造を知るための重要な手がかりが得られています。

12世紀にはいったん稼動が休止しますが、14世紀後半には再開し、中世の銅の製錬技術を知る上でも貴重な遺跡となっています。

江戸時代： 江戸時代初期には、長州藩直営の鉱山として再び隆盛を迎えました。しかし、坑内浸水などの問題により、江戸時代後半には再び休止状態となりました。その後も、岩絵具の材料である緑青（ろくしょう）の採掘が続けられ、「滝ノ下緑青」として全国的に知られるようになりました。

近代（明治～昭和）： 明治時代から昭和時代にかけても再稼動し、銅や日本では珍しいコバルトが採掘されました。明治後期から大正時代にかけて稼働していた花の山精錬所は、日本の独自の吹床精錬法を用いた製錬施設であり、現在でもその遺構が残っています。

国の史跡指定： 長登銅山は、古代の鉱山経営や鉱工業技術、東大寺の大仏や皇朝十二銭の鋳造といった律令国家の事業、中世・江戸時代の鉱山遺跡、そして明治から昭和にかけての産業遺産としての価値が高く評価され、2003年（平成15年）7月25日に「長登銅山跡」として国の史跡に指定されました。

長登銅山の地理と地質

長登銅山は、秋吉台の東南に位置し、標高約250～300メートルのなだらかな山と、山に囲まれた盆地状の谷からなる東西約1.6キロメートル、南北約2.3キロメートルの範囲に広がっています。現在では16カ所の鉱山跡と13カ所の製錬所の跡が確認されています。

長登銅山の鉱床は、スカルン鉱床という特殊な鉱床です。白亜紀に、秋吉台の石灰岩地帯に花崗岩が貫入した際に形成され、銅、鉛、亜鉛、銀、砒素、コバルトなどの金属が豊富に含まれています。特にコバルトは、日本では産出が少ないため、長登銅山は貴重な産地でした。

長登銅山周辺の鉱山

長登銅山と同様のスカルン鉱床を持つ鉱山は、周辺地域にも多く存在します。秋吉台周辺には、長登銅山の他、大切、箔鋪、花の山、烏帽子、梅ヶ窪、北平など複数の鉱山が分布していました。また、山口県内や福岡県、島根県などにも、同様の成因を持つ鉱山が存在しています。これらの鉱山は、多くが古代から採掘が行われていたと考えられています。

長登銅山での発掘調査

長登銅山での発掘調査は、1970年代から本格的に開始されました。当初は、古代の銅山の存在が確認された程度でしたが、1988年（昭和63年）、東大寺大仏殿西廻廊付近から出土した大仏鋳造用青銅の分析結果から、その銅が長登銅山の銅である可能性がきわめて高いことが判明しました。それ以降、大規模な発掘調査が行われ、古代の製錬跡や多数の木簡などが発掘されました。これらの出土品は、長登銅山文化交流館で展示されています。しかし、厚いスラグ層などにより、発掘調査は未だ進んでおらず、長登銅山の全貌は、依然として解明されていない部分が多いです。

まとめ

長登銅山は、その長い歴史と、数多くの遺構・出土品から、日本の古代から近代までの鉱業の歴史を理解する上で非常に重要な遺跡です。今後の発掘調査によって、さらに多くの事実が明らかになることが期待されています。また、長登銅山文化交流館では、長登銅山に関する貴重な資料を見学できます。興味のある方は、ぜひ訪れてみてください。

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