間島省

間島省（かんとうしょう）

満洲国が統治していた時代、その東南部に位置した行政区画の一つに間島省がありました。この地域は、地理的には現在の中国吉林省の東部に広がる延辺朝鮮族自治州にほぼ相当します。間島省が設けられた背景には、日本の満洲支配政策と、朝鮮半島からの人口移動、特に朝鮮総督府が主導した朝鮮人農民の組織的な入植計画が深く関わっていました。

歴史

間島省は、満洲国政府によって1934年（康徳元年）12月1日に正式に設置されました。これは、それまで吉林省に属していた延吉、汪清、和龍、琿春の4県と、奉天省の一部であった安図県を統合して新設されたものです。省の行政を担う省公署は、当初延吉県内の延吉街に置かれ、後にこの街が間島市として独立しました。

この省の大きな特徴は、住民構成にありました。満洲国全体の平均と比較して、日本人および朝鮮系住民の比率が非常に高かったのです。例えば、1936年に発行された紀行文「滄茫たる北満洲」によれば、当時の省首府であった延吉市の人口構成は、満洲人、日本人、朝鮮人がそれぞれ significant な割合を占め、特に朝鮮系住民が多く暮らしていました。この記録は、延吉市が満洲事変後の鉄道開通を経て急速に発展し、多様な人々が集まる新興都市として活況を呈していた様子を伝えています。

間島省の行政的な位置づけは、その存続期間中に変化しました。1943年には、周辺省と共に東満総省として統合されますが、満洲国が崩壊する直前の1945年5月には再び独立した間島省として再設置されています。

この地域の歴史は、近代東アジアの激動と深く結びついています。1909年には日本と清との間で間島協約が結ばれ、日本の鉄道敷設権や炭鉱採掘権が確認されました。辛亥革命後の軍閥時代を経て、張作霖が満州を支配した時期、そして1931年の満州事変と満洲国建国へと繋がっていきます。特に1930年には、万宝山における日本人入植者と現地住民の水利権を巡る紛争（万宝山事件）や、これに端を発した朝鮮各地での中国系住民襲撃事件（朝鮮排華事件）が発生し、民族間の緊張が高まりました。これらの出来事は、満洲事変に至る緊迫した状況を反映しています。

満洲国樹立後、朝鮮総督府と満洲国政府は連携し、朝鮮からの農民の集団移民を積極的に推進しました。間島省は、この移民政策の主要な受け入れ地の一つとなり、多くの開拓団が組織されて入植しました。治安維持のため、1938年には朝鮮人将兵を中心とした間島特設隊が創設され、抗日パルチザンなどとの戦闘に参加しました。特に1939年からは、東北抗日聯軍を殲滅するための大規模な討伐作戦がこの地域で行われ、激しい掃討戦が展開されました。

1945年8月、日本の敗戦と満洲国の崩壊により、間島省はその歴史を閉じました。終戦後、ソ連軍が進駐し、短期間ではありましたが間島省臨時政府が樹立されるなどの混乱が見られました。その後、国共内戦の舞台となり、1946年には旧満洲国関係者や有力者が多数拘束・処刑される事件（いわゆる4・26事件）が発生しました。1949年に中華人民共和国が成立すると、旧間島省の領域は吉林省の一部として再編され、現在に至っています。

下部行政区画

満洲国崩壊直前の間島省に置かれていた行政区画は以下の通りです。

間島市
延吉県
汪清県
和龍県
琿春県
安図県

歴代省長

間島省の歴代省長としては、蔡運升、金井章次、清原範益、神吉正一、岐部与平、菅原達郎、倉内善蔵などが記録されています。

主要工業

間島省内では、石炭の採掘（老頭溝煤礦、琿春炭礦）、鉄道輸送（東満洲鉄道）、そして林産資源を利用したパルプ製造（東満洲人絹パルプ、東洋パルプ）、化学工業（大同酒精、満洲曹達）などが主要な産業として営まれていました。

省内の施設など

日本人住民が多く居住したことから、省内各地には神社が建立されました。間島神社、延吉神社、図們神社などがその例として挙げられます。また、前述の通り、日本国内各地から組織された開拓団が多数入植し、農業生産に従事しました。岐阜県からの高鷲開拓団や朝日開拓団、滋賀県からの滋賀報国農場など、様々な地域出身の開拓団が存在しました。

間島省は、日本の大陸政策、満洲国の実態、そして朝鮮からの移民といった要素が複雑に絡み合った、特殊かつ激動の歴史を刻んだ地域であったと言えるでしょう。

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