阪神3301形・3501形電車

阪神3301形・3501形電車：赤胴車の系譜

阪神電気鉄道は、戦後高度経済成長期における輸送力増強のため、1950年代後半に新たな車両の導入を計画しました。その結果誕生したのが、3301形と3501形電車です。本形式は、それまでの旧型車両を置き換え、増加する乗客に対応するための主力車両として期待されました。

大型車両時代の幕開け

阪神における車両の大型化は、1954年に登場した3011形特急用車両から始まりました。3011形は高い性能を誇りましたが、本数増加の要望に応えるには不十分でした。高度経済成長による沿線地域の活性化と、阪神電鉄各線の輸送力増強の必要性から、より大型で高性能な車両の開発が急務となりました。

1958年、普通車用の新型車両として「ジェットカー」の試作車である5001形が登場、そして急行・準急用車両として3301形・3501形が製造されることになります。3011形での経験を活かし、ラッシュ時にも対応できる3扉ロングシート構造と、車体下部を朱色に塗装したデザインが採用されました。この塗装は後に「赤胴車」と呼ばれ、大きな人気を博しました。

3301形・3501形の特徴

1958年10月から1959年8月にかけて製造された3301形と3501形は、多くの共通点を持つ車両でした。3301形は4両、3501形は20両が製造され、製造所は川崎車輛、日本車輌製造、汽車製造の3社が担当しました。

両形式とも全車が電動車であり、単独での走行が可能な設計でした。3301形は両運転台構造で急行の増結用として、3501形は片運転台構造で基本編成用として製造されました。3501形は片運転台のため単独での営業運転はありませんでしたが、増結・解放の容易さが特徴でした。

車体とデザイン

3301形・3501形は、それまでの2扉セミクロスシート車である3011形とは異なり、3扉ロングシート構造を採用。ラッシュ時の混雑緩和を図りました。前面は貫通式3面折妻で、窓上にシールドビーム式の前照灯、貫通扉には幌を装備。このデザインは、後の阪神車両の顔として長く受け継がれることになります。

上半分クリーム色、下半分朱色の塗装は、当時人気だった漫画『赤胴鈴之助』を彷彿とさせ、「赤胴車」の愛称で親しまれるようになりました。屋根上には運転台側にパンタグラフ、箱型の通風器を搭載。これらの特徴的なデザインと仕様は、後の9000系、9300系、1000系といった車両にも受け継がれました。

主要機器

台車は住友金属工業製FS-206、駆動方式は直角カルダン方式を採用。主電動機は3301形が東芝製SE-516、3501形が東洋電機製造製TDK-858-1Bで、いずれも1時間定格出力60kWでした。制御装置は東芝製PE-15A、制動装置は発電制動付電磁直通式のHSC-Dでした。抵抗器は、3301形と3501形のうち3501～3508は強制通風式で、冬季は排熱を車内暖房に利用していました。3509以降は自然通風式となりました。

運用と改造

3301形・3501形は、急行運用を中心に活躍しました。ラッシュ時には4～5両編成、それ以外の時間帯は3両編成での運行が中心でした。大型車両への置き換えによって輸送力は大幅に向上しました。

1960年9月のダイヤ改正で特急の運転間隔が10分ヘッドになると、3301形・3501形も特急運用に本格的に投入されるようになりました。1965年には架線電圧の昇圧改造が行われ、1967年には武庫川線から881形を置き換えました。

1967年11月の架線電圧昇圧(600V→1500V)とATS取り付け後、1968年4月には神戸高速鉄道開業に伴い山陽電鉄への乗り入れを開始。本線では5～6両編成での増結運用、西大阪特急(現在の阪神なんば線)では2両編成での運用もされました。

1973年から1975年にかけて冷房改造が実施されました。3501形は1973～1974年、3301形は1975年に改造が完了し、改造後は固定編成となり、単独走行は不可能となりました。冷房化に伴い、制御装置やパンタグラフなどの機器も更新されました。

廃車と譲渡

1980年代半ばには老朽化が進み、3301形は1986年に全車廃車となりました。3501形も1986年から廃車が始まり、1989年3月に全車廃車となりました。

廃車された3301形4両は、京福電気鉄道福井支社に移籍し、モハ2201形として活躍しました。これは赤胴車唯一の他事業者への譲渡事例です。譲渡に際し、台車や主電動機などの機器更新が行われました。しかし、2001年の越前本線衝突事故で1両が廃車、2005年には老朽化のため2両が廃車となり、残る1両も2014年10月に廃車されました。

3301形・3501形は、阪神電鉄の輸送力増強に大きく貢献した車両でした。その活躍は、長く人々の記憶に刻まれています。そして、一部車両はえちぜん鉄道で第二の人生を歩み、その歴史に新たな一章を刻みました。

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