坂上苅田麻呂

坂上苅田麻呂：武門の名門を築いた奈良時代の公卿

坂上苅田麻呂（さかのうえ の かりたまろ）は、奈良時代に活躍した公卿であり、武人としてもその名を歴史に刻んでいます。坂上氏は代々、弓馬の道に秀でた武門の一族として、宮廷の警護を担ってきました。苅田麻呂自身も、その武勇を数々の場面で発揮し、一族の地位を大きく向上させることに貢献しました。特に、藤原仲麻呂の乱における活躍は、彼の名を世に知らしめる大きな出来事でした。

若き日の武勇と橘奈良麻呂の乱

苅田麻呂は、大和守・坂上犬養の子として生まれました。早くから武術に励み、その才能を開花させていました。天平宝字元年（757年）に発生した橘奈良麻呂の乱では、反乱を企てる側が武勇に優れた人物を集めて酒宴を開き、その際、苅田麻呂も招待されています。これは、彼が当時から武人として高く評価されていた証左と言えるでしょう。この後、苅田麻呂は授刀衛少尉に任官し、武官としてのキャリアをスタートさせました。

藤原仲麻呂の乱での活躍と昇進

天平宝字8年（764年）には、藤原仲麻呂の乱が発生します。この乱において、苅田麻呂は重要な役割を果たしました。孝謙上皇は仲麻呂が擁立していた淳仁天皇の中宮院から玉璽と駅鈴を回収しようとしましたが、仲麻呂の命を受けた訓儒麻呂によって奪い返されてしまいます。そこで、苅田麻呂は授刀将曹・牡鹿嶋足と共に訓儒麻呂を襲撃し、射殺するという大功をあげました。この功績により、彼は即日、正六位上から従四位下へと異例の5階級昇進を果たし、大忌寸の姓を賜与されました。さらに、中衛少将兼甲斐守にも任ぜられ、翌年には勲二等を受勲するなど、破竹の勢いで昇進を重ねました。

道鏡排斥と陸奥鎮守将軍

宝亀元年（770年）、称徳天皇が崩御し、光仁天皇が即位すると、苅田麻呂は道鏡の姦計を告発し、その排斥に貢献しました。この功績により、正四位下・陸奥鎮守将軍に叙任され、武人としての地位を確固たるものとしました。光仁朝では中衛中将を務める傍ら、安芸守や丹波守などの地方官も兼任し、文武両面でその能力を発揮しました。また、地方政治にも関わり、大和国高市郡の郡司職に関する上奏を行い、代々郡司を務めていた檜前氏を再び任じるよう働きかけ、勅を得るなど、地方行政にも貢献しました。

桓武天皇即位と晩年

天応元年（781年）に桓武天皇が即位すると、苅田麻呂は正四位上・右衛士督に叙任されました。しかし、延暦元年（782年）には氷上川継の乱に連座して一時解官されます。その後、すぐに復職し、伊予守、備前守、下総守、越前守などの地方官を歴任しました。延暦4年（785年）には従三位に叙せられ公卿に列し、一族は後漢の霊帝の子孫であるにもかかわらず卑姓を帯びていることを理由に改姓を上表し許され、忌寸姓から宿禰姓へと改姓しました。同年7月には左京大夫に任ぜられ、その生涯を終えるまでその職を務めました。

坂上田村麻呂の父として

苅田麻呂は、征夷大将軍として知られる坂上田村麻呂の父としても有名です。田村麻呂は、父の苅田麻呂から受け継いだ武の才能を大きく開花させ、蝦夷征討で活躍しました。苅田麻呂は、田村麻呂の活躍の礎を築いた人物であると言えるでしょう。

その死と後世への影響

延暦5年（786年）1月7日、苅田麻呂は59歳で亡くなりました。最終官位は左京大夫従三位兼右衛士督下総守でした。彼の死後も、坂上氏は武門の名門として朝廷に重用され、その影響力は長く続きました。坂上苅田麻呂の生涯は、奈良時代の激動期を生き抜いた武人の姿を今に伝えるとともに、一族の隆盛を築いた重要な人物として、歴史にその名を刻んでいます。

官歴

天平宝字年間：授刀少尉
時期不詳：正六位上
天平宝字8年（764年）9月11日：従四位下、忌寸姓から大忌寸姓に改姓。日付不詳：中衛少将。10月20日：兼甲斐守
天平神護元年（765年）1月7日：勲二等
天平神護2年（766年）2月21日：功田20町
神護景雲2年（768年）10月15日：従四位上
神護景雲4（770年）8月23：正四位下。9月16日：陸奥鎮守将軍
宝亀2年（771年）閏3月1日：中衛中将兼安芸守
宝亀3年（772年）4月20日：見近衛員外中将兼安芸守
宝亀8年（777年）12月20日：兼丹波守
天応元年（781年）4月15日：正四位上。5月7日：右衛士督
天応2年（782年）閏正月19日：解官（氷上川継の乱連座）。5月16日：右衛士督
延暦3年（784年）3月14日：伊予守。7月13日：兼備前守
延暦4年（785年）正月15日：兼下総守。2月12日：従三位。6月10日：大忌寸姓から大宿禰姓に改姓。7月6日：兼左京大夫。10月12日：兼越前守
延暦5年（786年）1月7日：薨去（左京大夫従三位兼右衛士督下総守）

系譜

父：坂上犬養
母：不詳
妻：畝火浄永の娘
生母不明の子女
男子：坂上石津麻呂
男子：坂上広人
男子：坂上田村麻呂（758-811）
男子：坂上鷹養（?-817）
男子：坂上真弓 - 直弓とも
男子：坂上鷹主（?-845）
男子：坂上雄弓
女子：坂上又子（?-790） - 桓武天皇宮人
女子：坂上登子 - 藤原内麻呂室

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