阿部良二

阿部良二：競輪界を震撼させた異端の天才

競輪との出会い

阿部良二は、1953年3月6日、岩手県紫波町に生まれました。高校時代は自転車競技に打ち込み、1970年の全国高等学校総合体育大会自転車競技大会スプリントで2位に入賞する実力者でした。しかし、当時、競輪が盛んではなかった岩手県出身だったため、競輪の存在を知りませんでした。顧問の先生に勧められたことをきっかけに、競輪の世界に足を踏み入れることになります。

規格外の新人

1972年、競輪学校29期生としてデビューした阿部は、その初戦で1着を飾ると、その後も連勝を重ね、21連勝という驚異的な記録を打ち立てました。同期には、加藤善行、天野康博、久保千代志といった後に特別競輪を制する選手がおり、「花の29期生」と呼ばれました。

デビュー当時、競輪界は福島正幸、田中博、阿部道という三強時代でしたが、その中でも福島は阿部の実力を高く評価していました。「もし三強の時代を終わらせる選手がいるとすれば、それは間違いなく阿部良二だ」と語り、その圧倒的な馬力に脅威を感じていたことを明かしています。

豪快なキャラクターと「絶好調です！」

阿部は、その実力だけでなく、豪快なキャラクターでも注目を集めました。競輪マスコミに「調子はどうですか？」と聞かれると、「これから戦場に出て行くのに、調子が『まぁまぁです』なんて言えるはずがない」と、「絶好調です！」と答えたそうです。これは、後にプロ野球選手の中畑清も使うフレーズとして有名になりますが、阿部が使用したのは、それよりも前のことでした。競輪マスコミは阿部の大胆な言動を「良二語録」と呼び、その破天荒なキャラクターが人気を集めました。

圧倒的な破壊力

新人時代から、その馬力は他の選手を圧倒するものでした。ゴール直前で両手を挙げてバンザイをするような、他の選手を寄せ付けないレース展開を繰り広げました。一部では、「阿部の全盛期が歴代の競輪選手の中で一番強かった」という声もあるほどです。1981年には、富山競輪場でバンクレコード9.0秒を記録。これは2023年に小堺浩二によって更新されるまで、現存する競輪場で最も長く保持された記録でした。

世界選手権での快挙と辞退

1975年、阿部は世界自転車選手権プロスクラッチで競輪選手として初の銅メダルを獲得しました。しかし、翌年の全日本プロ選手権自転車競技大会で優勝したにも関わらず、世界選手権の代表を辞退してしまいます。その理由として、当時はまだ国内タイトルを獲得していなかったため、まずは競輪でタイトルを取ることを優先したかったという見方があります。また、前年の世界選で銅メダルを獲得した際、欧州の自転車関係者から「1年間、欧州グランプリシリーズに出てみないか」と打診され、阿部も乗り気だったにもかかわらず、競輪界関係者から反対されたことも、世界選手権への意欲を失わせた要因と言われています。阿部の辞退により、中野浩一が世界選手権に出場。もし阿部が辞退していなければ、中野の10連覇はなかったかもしれません。

短い全盛期と引退

1976年の競輪王戦決勝では、ゴール直前で両手を挙げてバンザイをする、桁外れなレース展開を見せつけました。しかし、阿部の全盛期は短く、1975年にデビューした中野浩一がトップスターの地位を確立した時点で、事実上終焉を迎えたと言えるでしょう。岩崎誠一の事故による不調や、フラワーラインの台頭によって、レースの流れが「点の戦い」から「線の戦い」へと変化したことが、阿部の不振につながったと考えられています。自分の型を押し殺してまでラインに貢献する走りを好まなかった阿部は、フラワーVS中野時代に入ると、その存在感を失ってしまいます。1980年の日本選手権競輪が最後の特別競輪決勝進出となりました。

40代に入るとA級に降格しましたが、その後S級に復帰。2002年のふるさとダービーで15年ぶりにビッグレースへの出場を果たしました。2004年9月28日、選手登録を消除。通算勝利数は670勝でした。引退式は、登録地である岩手県に競輪場がないため、サテライト石鳥谷で行われました。

引退後

引退後は、日本ナショナルチームのヘッドコーチに就任し、フレデリック・マニェ監督を補佐。2010年のトラックレース世界選手権では監督を務めました。

主な獲得タイトルと記録

1976年 - 競輪祭全日本競輪王（小倉）
1978年 - 高松宮杯（大津びわこ）
* バンクレコード - 富山競輪場、9.0秒（1981年6月22日）

阿部良二は、その規格外の実力と破天荒なキャラクターで競輪界を大いに沸かせた伝説的な選手です。その走りは、多くの競輪ファンを魅了し、今でも語り継がれています。

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