降露坂の戦い

降露坂の戦い：石見銀山を巡る毛利氏と尼子氏の激突

降露坂の戦いは、永禄2年（1559年）に安芸国の戦国大名・毛利氏が、石見国の石見銀山（現在の島根県大田市）を巡り、尼子氏に大敗を喫した戦いです。この戦いは、両氏の勢力拡大における重要な転換点となりました。

戦いの背景

弘治2年（1556年）、毛利元就は周防・長門への侵攻（防長経略）と並行して、次男の吉川元春らを石見国に進軍させ、山吹城（大田市）の刺賀長信を服属させることで石見銀山を支配下に置きました。これに対し、尼子晴久は同年に忍原で毛利軍を破り、宍戸隆家を討ち取って山吹城と石見銀山を奪還しました（忍原崩れ）。尼子氏は山吹城に本城常光を配置し、銀山の守りを固めました。

戦いの経過

前哨戦

永禄元年（1558年）、元就は再び石見銀山を奪取するため、吉川元春と小早川隆景を率いて小笠原長雄の居城である温湯城（川本町）に侵攻しました。長雄は尼子氏の家臣・多胡辰敬を通じて救援を要請し、尼子氏も援軍を送りましたが、長雄は同年または翌永禄2年（1559年）8月に降伏しました。

山吹城攻め

温湯城を落とした毛利軍は、石見銀山周辺の尼子方の諸城を攻撃し始めました。永禄2年9月、毛利軍は1万4000人ともいわれる大軍を率いて山吹城の正面にある仙ノ山に陣を敷き、山吹城攻略を開始しました。しかし、山吹城を守る常光の抵抗は激しく、毛利軍は苦戦を強いられました。

尼子軍の追撃

長期にわたる遠征で、元就は山吹城の落城が容易ではないと判断し、さらに豊前国の毛利氏拠点である門司城（北九州市）を大友義鎮が攻め始めた（第二次門司城の戦い）ため、撤退を決意しました。毛利軍は降露坂を下りながら温泉津方面へ撤退を開始しましたが、この退却中に尼子軍の追撃を受けました。それまで動かなかった常光率いる山吹城守備兵や他城の守備兵が合流し、さらに晴久の本隊も加わって一斉に攻撃を仕掛けました。坂を下っている最中の毛利軍は、不意を突かれ大混乱に陥り、総崩れとなりました。

この敗走は、元就自身も命からがら逃げるほどの混乱状態だったと伝えられています。降露坂は、過去にも大内義隆の出雲遠征失敗（第一次月山富田城の戦い）の際、毛利軍が撤退に使用したルートであり、この時も家臣の渡辺通ら7騎が元就の身代わりになった（七騎坂）という逸話がありますが、このエピソードは降露坂の戦いでの出来事とする説もあります。

戦いの結果

常光の巧みな軍略により毛利軍を退却させることに成功した尼子氏は、10月には晴久が出雲に帰還しました。この戦いの勝利により、尼子氏は石見銀山の防衛に成功し、戦略的な勝利を収めました。

一方、石見銀山攻略に失敗した毛利元就は、北九州の大友氏、山陰の尼子氏という二方面に敵を抱えることになりました。さらに、毛利氏に従属していた石見国人の福屋隆兼も反旗を翻して尼子方に付き、元就は晴久の生存中に石見銀山を奪回することはできませんでした。元就が最終的に銀山を手中に収めたのは、晴久の急死後に尼子義久と和議を結び、福屋隆兼の居城を落とし、さらに山吹城の常光を調略によって籠絡した永禄5年（1562年）のことです。

降露坂の戦いは、毛利氏の勢力拡大を一時的に食い止め、尼子氏の軍事力を示す重要な戦いとなりました。

脚注

七騎坂は、降露坂の戦いでの出来事とする説もある。

関連項目

月山富田城の戦い

外部リンク

* 降路坂 - しまねバーチャルミュージアム

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