防長経略

防長経略：毛利元就による周防・長門攻略戦

防長経略は、戦国時代の武将、毛利元就が、天文24年（1555年）から弘治3年（1557年）にかけて行った、周防・長門両国（現在の山口県）への侵攻作戦です。この戦いは、厳島の戦いでの勝利を背景に、大内氏の勢力を一掃し、毛利氏が中国地方の有力大名へと躍進する契機となりました。

戦いの背景

天文24年10月、毛利元就は厳島の戦いで大内氏の重臣・陶晴賢を討ち破り、大内軍の主力に大打撃を与えました。この勝利を機に、元就は周防・長門両国の攻略を計画。まずは安芸・周防国境の小方に陣を移し、作戦を練り始めました。当時、大内氏の勢力は、本拠地の山口を中心に、各地に城を構え、毛利軍の侵攻に備えていました。しかし、厳島の戦いで主力軍を失った大内軍は、動揺を隠せませんでした。

周防国東部への侵攻

元就はまず、調略によって大内氏の内部に揺さぶりをかけました。10月18日には、大内方の武将・椙杜隆康が毛利氏に降伏。これに続き、隣接する鞍掛山城の杉隆泰も降伏しました。しかし、両者の仲が悪かったため、隆康は隆泰の降伏が偽りであると元就に密告。これにより、毛利軍と隆泰の関係は決裂しました。その後、毛利軍は7,000の兵で鞍掛山城を攻撃。杉軍は善戦しましたが、10月14日（または27日）未明、毛利軍の奇襲によって杉親子と城兵1,300人が討たれ、鞍掛山城は落城しました。

翌11月には、毛利方の村上水軍が大島郡の宇賀島を攻撃し、大内方の水軍を壊滅させました。また、年明けまでに玖珂郡の多くの地侍が毛利氏に服属。しかし、山代地方の郷村は成君寺の山城に籠もり、毛利軍に抵抗を続けました。毛利軍は、高森城から成君寺城を攻め、2月12日頃にこれを落城させ、同月18日には三瀬川で大内義長軍を撃退しました。

周防国西部への侵攻

玖珂郡を平定した毛利軍は、本陣を岩国の永興寺に移し、都濃郡の須々万沼城攻略を目指しました。4月20日、小早川隆景率いる5,000の軍勢が沼城を攻めますが、城主の山崎興盛と大内氏援軍の江良賢宣に撃退されます。沼城は、三方を沼沢に囲まれ、小辻川を堰き止めて水かさを増すなど、堅固な守りを誇っていました。9月22日には毛利隆元が再度攻撃を試みるも、落城させることはできませんでした。

弘治3年2月、元就自身が10,000余の軍勢を率いて沼城攻略を再開しました。元就は沼城の背後に本陣を構え、隆元と隆景もそれぞれ東西に布陣。2月19日より始まった毛利軍の総攻撃に対し、城兵は頑強に抵抗しましたが、3月2日早朝、毛利軍が沼地を埋め立てて城に迫り、籠城していた1,500人余りが惨殺されました。この戦いで、毛利軍は初めて火縄銃を戦闘で使用したとされています。このような猛攻により、江良賢宣が降伏し、山崎興盛も開城しました。興盛は毛利家に仕えることを固辞し、自害しました。

この戦いに関連して、「沼を渉る女」という民話が残っています。籠城する山崎興盛の息子・隆次は、新婚の妻と離別を余儀なくされますが、妻は夫を慕い、沼の浅瀬を渡って城に近づこうとしました。この様子を見た毛利軍が、浅瀬の位置を知って城を攻め入ることができたとされています。

大内氏の内部崩壊

元就による周防侵攻が進む一方で、大内氏の内部崩壊も進んでいました。陶氏の本拠地である富田若山城は、陶晴賢の嫡男・長房が守っていましたが、晴賢に討たれた杉重矩の遺児・杉重輔に襲撃され、長房は自害しました。重輔の挙兵は毛利氏と通じていたとも言われています。

その後、内藤隆世が重輔を討伐しようとするも、義長が仲裁に失敗。両軍は山口で戦いとなり、山口の街は焼かれ、重輔は討たれました。3月8日、毛利軍は富田若山城を攻略し、防府の天神山に駐屯していた大内軍を撃破しました。右田隆量らは元就の勧告に応じて降伏し、防府を制圧した元就は、松崎天満宮に本陣を移して山口総攻撃の指揮を執りました。

大内義長の最期

大内義長は内藤隆世とともに、高嶺城に籠城しましたが、毛利軍の侵攻を防ぐことはできず、長門の且山城（勝山城）へ逃亡しました。毛利軍は山口を占領し、福原貞俊に5,000の軍勢を預けて義長追討を命じました。元就は、義長の実家である大友氏の援軍を阻止するために、海陸から封鎖を行いました。義長が立て籠もった且山城は堅城でしたが、元就の策により、隆世が自害し、義長は開城しました。しかし、毛利軍は義長を謀り、長福院を包囲して自刃させました。これにより、大内氏と陶氏の正統な後継者は絶え、防長経略は完了しました。

戦後の影響

防長経略の結果、毛利氏は周防・長門を併呑し、中国地方有数の大名となりました。しかし、大内氏の残党による蜂起が各地で発生し、毛利氏による掃討は永禄12年（1569年）まで続きました。また、この戦いで地下人の強い抵抗に直面した元就は、軍勢狼藉を防ぐための契状を作成し、国人領主から戦国大名へと転身を図りました。

大内氏は、義長の死により正統が断絶。大友氏は大内氏旧領の豊前・筑前を占領し、九州探題に任じられましたが、毛利氏との対立を深めました。尼子氏は石見銀山を奪回しましたが、後に毛利氏に取り返されることになりました。陶氏の嫡流は断絶しましたが、傍流は毛利氏の家臣として生き残りました。内藤氏は、隆世の叔父である隆春が家督を継ぎ、江戸時代まで長州藩士として続きました。

防長経略は、戦国時代の勢力図を大きく変える重要な戦いであり、毛利氏の隆盛を決定づけた出来事でした。

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