陳矯

陳矯（ちん きょう、生年不詳 - 237年）は、後漢末期から三国時代の魏にかけて活躍した政治家です。字は季弼（きひつ）といい、徐州広陵郡東陽県（現在の江蘇省淮安市一帯）の出身です。

『魏氏春秋』によると、彼は元々劉姓でしたが、母方の陳姓に改めたとされています。

生涯

陳矯は、誠実で実直な性格の持ち主で、政治手腕に優れていました。主君に対しても、誤りがあれば率直に諫言するほどの豪胆さも持ち合わせていました。戦乱を避けて一時江東に避難していましたが、袁術や孫策からの招聘を拒否し、故郷に戻った後、太守の陳登の招聘に応じました。陳登からは、許都との連絡役を任されるなど、厚遇を受けました。この頃、薛悌とも交流があったとされています。

孫権が北上して陳登を攻撃した際には、陳矯は曹操に弁舌を尽くして援軍を求めました。曹操は陳矯の弁舌と才覚に感銘を受け、家臣となるよう誘いましたが、陳矯は陳登が窮地にあることを理由にこれを拒否しました。曹操の援軍を得た陳登は、撤退する孫権軍を追撃し、これを大いに破りました。

その後、曹操からの正式な招聘を受け、司空掾属、相県令、征南長史、彭城太守、楽陵太守、魏郡西部都尉などの要職を歴任しました。父への孝行のため、逮捕された囚人をその孝行に免じて赦免したという逸話も残っています。魏郡太守としては、前任者が刑罰の軽重に拘り、未決のまま長期間放置されていた囚人たちを自ら調べ、短期間で判決を下しました。曹操が遠征する際には丞相長史として随行し、帰還後は魏郡太守に戻り、西曹属となりました。曹操の漢中征伐にも随行し、帰還後に尚書に任命されました。

曹操が洛陽で亡くなった際、陳矯は多数の意見に反し、曹丕に対して争乱を避けるために勅命を待たずに魏王に即位すべきであると進言しました。この的確な判断は曹丕から高く評価され、曹丕（文帝）が即位すると、吏部、高陵亭侯、尚書令といった要職を歴任しました。曹叡（明帝）の時代には、東郷侯に封じられ、六百戸の所領を与えられました。曹叡が尚書令の役所に赴き、自ら文書を調べようとした際には、天子と臣下の職分を説き、これを諫めました。その後、侍中、光禄大夫を経て、司徒まで昇進しました。

237年に亡くなり、諡は貞侯とされました。

長男の陳本は、曹芳（斉王）や曹髦（高貴郷公）の時代に政治に参与し、その統率力と行政手腕から鎮北将軍、仮節、都督河北諸軍事にまで昇進しました。次男の陳騫は、司馬昭、司馬炎父子に協力し、晋の成立と発展に大きく貢献しました。陳矯の子孫は、西晋、東晋を通じて貴族として続きました。

三国志演義

小説『三国志演義』では、曹仁の参謀として登場し、赤壁の戦い後、荊州南郡に侵攻した孫権軍の周瑜の攻撃を守備する役割を担っています。曹操から授けられた秘策を用いて、周瑜に毒矢を浴びせ苦戦させるも、同じく荊州制覇を狙う劉備軍の諸葛亮に捕らえられ、印璽を取り上げられた上で、その調略に利用されるという描写がなされています。

陳矯は、その誠実な人柄と卓越した政治手腕で、魏の発展に大きく貢献した人物と言えるでしょう。

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