陳祗

陳祗（ちんし）

陳祗は、中国三国時代の蜀漢に仕えた政治家で、字は奉宗（ほうそう）といいました。彼の家系は名門であり、曾祖父は陳蕃（ちんぱん）、母方の叔祖父は許靖（きょせい）という人物でした。

生涯

幼い頃に両親を亡くした陳祗は、母方の叔祖父である許靖に育てられました。20歳になる頃には才能が認められ、順調に昇進を重ねて選曹郎（せんそうろう）という役職に就きました。彼は容姿にも恵まれ、厳粛で威厳があり、様々な才能を持っていました。特に、天文や暦、占いなどの分野に精通していたと言われています。

費禕（ひい）は陳祗の才能を高く評価し、延熙9年（246年）に董允（とういん）が亡くなると、陳祗を侍中（じちゅう）に抜擢しました。その後、延熙14年（251年）には尚書令（しょうしょれい）に昇進し、鎮軍将軍（ちんぐんしょうぐん）という役職も兼任しました。

陳祗は皇帝である劉禅（りゅうぜん）に深く信任され、寵臣（ちょうしん）としての地位を確立しました。延熙16年（253年）に費禕が暗殺されると、姜維（きょうい）が北伐（ほくばつ）で都を離れていることが多かったため、陳祗が代わりに国政を担うことになりました。彼は劉禅の意向を尊重し、宦官（かんがん）との関係も良好に保ちました。そのため、彼の権力は姜維よりも強大になったと言われています。

しかし、龐宏（ほうこう）という人物は、陳祗を軽んじていたため、陳祗の圧力によって昇進することができず、涪陵太守（ふりょうたいしゅ）という地方官のまま亡くなったとされています。

姜維が北伐を繰り返すようになると、譙周（しょうしゅう）という学者が民衆の疲弊を憂い、『仇国論（きゅうこくろん）』という書物を著して姜維を批判しました。この書物は、譙周と陳祗の論争を元に書かれたと言われています。陳祗と姜維は政治的な立場は異なりましたが、北伐に関しては協調する姿勢を見せていました。しかし、陳祗には軍事経験がなく、姜維には行政経験がなかったため、諸葛亮（しょかつりょう）のように政治と軍事を統括することができず、北伐がうまくいかなかったという指摘もあります。

景耀元年（258年）に陳祗は亡くなりました。彼の死後、後ろ盾を失った姜維は北伐を中断せざるを得なくなりました。劉禅は陳祗の死を深く悲しみ、彼の功績を称える詔勅（しょうちょく）を出しました。そして、彼に「忠侯（ちゅうこう）」という諡（おくりな）を贈り、長男の陳粲（ちんさん）に関内侯（かんないこう）の爵位を与え、次男の陳裕（ちんゆう）を黄門侍郎（こうもんじろう）に任命しました。

評価

陳祗は、董允とは異なり、劉禅に諫言（かんげん）することはありませんでした。また、宦官の黄皓（こうこう）が政治に関与することを容認したため、蜀を滅亡に導いた要因の一つとして否定的な評価を受けています。蜀の旧臣であった陳寿（ちんじゅ）は、「劉禅が董允を疎ましく思うようになった原因は、陳祗と黄皓にあった」と評しています。

しかし、劉禅の伝記には、黄皓が政治的な権力を握り始めたのは、陳祗の死後である景耀元年（258年）からであると記されています。

三国志演義

小説『三国志演義』には、陳祗は登場しません。また、譙周が『仇国論』を著す場面でも、陳祗の名前は見当たりません。

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