青野原の戦い

青野原の戦い：南北朝時代の激戦とその後

延元3年/暦応元年（1338年）1月、美濃国青野原（現在の岐阜県大垣市、不破郡垂井町周辺）で、南朝方の北畠顕家率いる軍勢と、北朝方の足利方諸将による大規模な合戦が勃発しました。この戦いは、後醍醐天皇への忠誠を誓い、上洛を目指した北畠軍と、それを阻止しようとする足利方の間で繰り広げられた、南北朝時代の重要な合戦の一つです。

戦いの背景

北畠顕家は延元2年/建武4年（1337年）、後醍醐天皇の呼びかけに応え、義良親王（後の後村上天皇）を奉じて奥州から上洛。関東で足利勢を破り、鎌倉を攻略するなど、勢力を拡大していました。しかし、足利方は房総に逃れ、その後、上杉憲顕ら足利勢は鎌倉を奪回、北畠勢を挟み撃ちにするべく西進を開始します。この動きに呼応するように、今川範国、吉良満義、高師兼、高師冬、土岐頼遠など、多くの有力武将が足利方に加勢。その総勢は約8万とも言われています。

北畠勢は鎌倉出発後、東海道を西進。途中で宗良親王と合流し、美濃国へと到達しました。一方、京都の足利尊氏は、北陸で勢力を回復しつつあった新田義貞への対応に追われ、北畠勢の急激な西上に対応しきれませんでした。

戦いの経過

美濃国の守護である土岐頼遠は、美濃国で決戦を行うことを主張。北畠勢も、京都への進撃の前に足利勢の弱体化を図ろうと、垂井・赤坂周辺から東へ一旦後退しました。

1月28～29日、両軍は尾張との国境付近から美濃西部にわたる広範囲で激突します。足利方は軍勢を5つの部隊に分割し、くじ引きで攻撃順序を決めたと伝えられています。各部隊は、木曽川、墨俣川、足地川、青野原など各地で北畠勢と激戦を繰り広げました。

特に青野原では、上杉憲顕率いる武蔵・上野の軍勢が、新田義興・宇都宮氏の軍勢と激突。激しい戦闘となりました。最終的に、土岐頼遠と桃井直常率いる部隊が北畠顕家の本隊と激突しますが、北畠勢の大軍の前に敗北します。この戦いで土岐頼遠は重傷を負い、一時行方不明になったとされています。

戦いの影響

青野原の敗報を受けた足利尊氏は、高師泰、佐々木道誉（京極道誉）、佐々木氏頼（六角氏頼）、細川頼春らを率いる約5万の軍勢を派遣。この援軍は近江国と美濃国国境の黒血川に布陣し、背水の陣を敷いたと言われています。

青野原の戦いに勝利したものの、北畠勢は長期の行軍と戦闘で疲弊していました。そのため、新たな足利勢と戦う力は残っておらず、近江から京都への突破を断念。北陸の新田義貞と合流する選択肢もありましたが、北畠勢は伊勢国・伊賀国を経て吉野へ退却しました。伊勢への転進は、北畠氏が勢力を拡大していた伊勢で再起を図るため、あるいは新田義貞に功績を奪われるのを避けるためなど、諸説あります。

足利方は窮地を脱し、高師直率いる軍勢を大和国に派遣。北畠顕家は大和国般若坂で敗北後、摂津国で京都奪回を目指しましたが、和泉国石津で戦死（石津の戦い）。

一方、土岐頼遠は青野原の戦いで敗れながらも、北畠勢の上洛を阻止したことで、その名声を高めました。

後世への影響

興味深いことに、関ヶ原の戦いは、当時「青野原（合戦）」とも呼ばれていました。関ヶ原と青野原は地理的には近接していますが別個の場所です。しかし、合戦直後は青野原での合戦として伝わっていたため、このような名称が用いられたと考えられます。また、『太平記』における青野原の戦いの記述が、日本文学において「背水の陣」を初めて題材とした例であるとされています。

参加人物

南朝方（北畠勢）：義良親王（後の後村上天皇）、宗良親王、北畠顕家、北畠顕信、新田徳寿丸（後の新田義興）、北条時行、結城宗広、伊達行朝、南部師行、宇都宮公綱など

北朝方（足利勢）：土岐頼遠、高師冬、高師兼、上杉憲顕、上杉憲藤、桃井直常、今川範国、吉良満義、小笠原貞宗、三浦高継など

青野原の戦いは、南北朝時代の動向を大きく左右した重要な合戦であり、その後の歴史にも影響を与えた出来事でした。

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