鞠智城

鞠智城（きくちじょう）とは

鞠智城は、熊本県山鹿市と菊池市にまたがる米原台地に築かれた古代山城です。2004年に国の史跡に指定され、その歴史的価値が認められています。

歴史

鞠智城の築城年代は不明ですが、『続日本紀』には文武天皇2年（698年）の修復記事が残っています。発掘調査の結果、7世紀後半から10世紀中頃まで約300年間存続していたことが判明しており、白村江の戦い後の防衛のために、大野城や基肄城とほぼ同時期に築かれたと考えられています。

特徴的なのは、八角形の建物跡や銅造菩薩立像の出土です。これらは、百済からの亡命者が建設に関わった可能性を示唆しています。

立地と構造

標高90〜171メートルの台地に位置し、城壁の周囲は約3.5キロメートル、面積は約55ヘクタールに及びます。大宰府から南へ約62キロメートルに位置し、古代山城としては最南端にあります。菊池川の河口から内陸へ約30キロメートル入った場所にあり、肥沃な平野を見下ろす要衝です。城の南側には、古代官道が通っていたと推測されています。

発掘調査では、国内の古代山城で唯一の八角形建物跡が2棟（時期の異なる2時期）確認されたほか、72棟の建物跡、3箇所の城門跡、土塁、水門、貯水池などの遺構が見つかっています。貯水池跡からは、付札木簡や百済系の銅造菩薩立像も出土しており、当時の様子を垣間見ることができます。

軍事・行政拠点としての役割

築城当初は、大宰府と連携した軍事施設としての役割が大きく、北部九州の防衛拠点として機能していました。兵站基地としての役割や、有明海からの侵攻に対する備えも担っていたと考えられています。

修復期以降は、軍事的な役割に加え、食料備蓄施設や南九州支配の拠点としての機能も果たしていたと考えられています。7世紀末の律令制導入時には、肥後北部の役所機能を持つ拠点として改修され、大宰府と連動した施設の改修や変遷が確認されています。

他の古代山城が国府の近くに位置するのに対し、鞠智城は城自体が役所機能を持ち、特殊な古代山城といえます。8世紀後半以降は、物資貯蔵に特化した施設へと変化し、その役割を終えたとされています。

白村江の戦いとの関連

鞠智城は、白村江の戦い（663年）で日本が唐・新羅連合軍に敗れた後、防衛のために築かれたと考えられています。

• - 663年：白村江の戦いで日本・百済復興軍が敗北。
• - 664年：対馬、壱岐、筑紫に防人を配備、水城を築城。
• - 665年：長門に城を築き、筑紫に大野城と基肄城を築城。
• - 667年：大和、讃岐、対馬に城を築城。

これらの歴史的背景からも、鞠智城が国家的な防衛戦略の一環として築かれたことがわかります。

調査研究

鞠智城跡の本格的な調査研究は、1937年の坂本経堯による踏査研究から始まりました。1967年からは発掘調査が本格化し、2010年までに32次の調査が実施されました。

これらの調査により、鞠智城の構造や歴史的背景が明らかになり、その成果は『鞠智城跡 Ⅱー鞠智城跡第8～32次調査報告ー』としてまとめられています。

また、古代山城の分類に関する議論も、初期は神籠石と古代山城の二分類で行われていましたが、近年では共通事項で検討されるようになっています。さらに、古代山城の築造目的も、軍事機能だけでなく、地方統治の拠点としての役割も認識されるようになりました。

現在の鞠智城

現在、鞠智城跡は「歴史公園鞠智城・温故創生館」として整備され、八角形鼓楼、米倉、兵舎、板倉などが復元されており、一般公開されています。2011年には、第2回古代山城サミットが鞠智城で開催され、イメージキャラクター「ころう君」を中心に、様々なイベントも実施されています。2017年には、続日本100名城にも選定されました。

熊本県は、鞠智城の調査研究・保存・活用に取り組んでおり、シンポジウムの開催などを通じて、その歴史的価値を広く発信しています。

アクセス

• - 公共交通機関：熊本桜町バスターミナルからバスを乗り継ぎ、立徳バス停から徒歩約21分。
• - 車：九州自動車道植木インターチェンジから約16km。

鞠智城は、古代日本の歴史を物語る重要な遺産です。訪れることで、古代の人々の暮らしや文化を感じることができるでしょう。

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