顧愷之

顧愷之（こ がいし）

顧愷之（344年? - 405年?）は、中国東晋時代の著名な画家であり、字は長康、また顧虎頭とも呼ばれていました。

生涯と逸話

彼は晋陵郡無錫県（現在の江蘇省無錫市）の出身で、桓温や殷仲堪の参軍を務め、安帝の時代には散騎常侍となりました。顧愷之は「画聖」と称えられ、謝安からは「史上最高の画家」と評されるほど重んじられました。著書には『啓蒙記』や『文集』があります。

顧愷之は博学で才気に溢れ、同時代の人々からは画絶・才絶・癡絶の「三絶」を備えていると評されました。才絶は文章の才能、癡絶は人物の呑気さを指します。『晋書』の伝記にも、彼が諧謔を好んだことが記されています。彼はサトウキビを食べる際、先端から甘い根の方へとかじる習慣があり、その理由を問われると「漸入佳境（しだいに良い境地に入る）」と答えたと伝えられています。この言葉は、次第に感興が高まる様子を形容する際に用いられるようになりました。

絵画

顧愷之は唐代以降、名画の祖として尊ばれています。南朝斉・梁の時代の謝赫は『古画品録』を著し、画の品等を6つに分けました。その中で、第一品には陸探微と曹不興を挙げ、顧愷之には第三品を当てています。謝赫は顧愷之の画について、「格体精微、筆無妄下、但跡不迨意、声過其実（筆致は精緻だが、筆の跡が意に及ばず、名声が実質を上回る）」と評しました。しかし、唐末の張彦遠は謝赫の評価を訂正し、顧愷之を陸探微、張僧繇、呉道玄とともに第一品に位置づけています。

張彦遠の『歴代名画記』には、顧愷之の画論も記されており、これは現存する最古の画論の一つです。顧愷之は人物を描くことが最も難しいと考え、中でも瞳を描くこと、すなわち「点睛」の重要性を説きました。魏の嵆康の文に「手揮五弦、目送帰鴻（手を五弦に揮い、目を帰る雁に送る）」という句があり、顧愷之はこの主題を好んで描きましたが、「目送帰鴻」の表現は難しいと語っています。

清朝初期の卞永誉による『式古堂書画彙考』には、顧愷之の作品として5点が挙げられていますが、現在の学説では、北宋時代の模写であるものの、『洛神賦図』と『女史箴図』が顧愷之の原図を最も良く留めているとされています。

参考文献

内藤湖南『支那絵画史』

外部リンク

大英博物館收藏の女史箴図

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