飛行場前駅

北海道宗谷郡猿払村字浅茅野台地の広大な原野に位置していた飛行場前駅（ひこうじょうまええき）は、かつてこの地を南北に結んでいた北海道旅客鉄道（JR北海道）天北線の旅客駅でした。天北線自体の廃止を受けて、1989年（平成元年）5月1日に鉄道駅としての歴史に幕を下ろしました。

歴史

この駅の始まりは、日本国有鉄道がまだ管轄していた1955年（昭和30年）12月2日に遡ります。当時は正式な駅ではなく、鉄道管理局によって設定された「飛行場前仮乗降場」という位置づけでした。当初所属していた北見線が、1961年（昭和36年）4月1日に天北線へと名称を変更された後も、引き続き同線の仮乗降場として存続します。大きな転機が訪れたのは、国鉄が分割民営化された1987年（昭和62年）4月1日です。この時、北海道旅客鉄道（JR北海道）の駅として正式に昇格し、「飛行場前駅」となりました。しかし、その駅としての期間は短く、わずか2年後の1989年（平成元年）5月1日、天北線全線の廃止に伴い、他の多くの駅と共に廃止される運命をたどりました。

駅名の由来と不思議な背景

飛行場前という独特な駅名は、駅が設けられる以前、この付近に旧大日本帝国陸軍の浅茅野第一飛行場が存在したことに由来します。この飛行場は太平洋戦争中の1944年（昭和19年）に建設された軍事施設でしたが、わずか1年後の1945年（昭和20年）に終戦を迎えたため、その本来の役割を十分に果たすことなく、短期間の使用に留まりました。飛行場に関連する兵舎や将校官舎などの建物も、駅が開業する前の1951年（昭和26年）には全て解体撤去されており、当駅が仮乗降場として産声を上げた1955年（昭和30年）時点では、周囲に目立った構築物も存在しない、まさに原野のただ中でした。そのため、「飛行場がない場所に飛行場前という駅がある」という状況はしばしば人々の関心を惹き、テレビや書籍などで紹介されることもありました。駅名だけが、かつてこの地に存在した飛行場の痕跡を伝える唯一の手がかりとなっていたのです。

駅構造と設備

廃止時点において、飛行場前駅は単式ホーム1面1線のみを備えた地上駅でした。ホームは線路の西側に位置し、南稚内方面へ向かう列車から見て左手側にあたります。ホームは木製のデッキ式で、その南側、音威子府方向には緩やかなスロープが設けられており、近くを通る道路へと続いていました。

仮乗降場から正式な駅へと昇格した経緯を持つため、駅舎は設けられていない無人駅でした。しかし、ホームの出入口から少し離れた場所には、マンサード屋根の特徴的な形状を持つ小さな待合所が一棟存在しました。この待合所の入口には、「飛行場前停畄場」と記された表示が見られたといいます。また、仮乗降場として運用されていた時期には、駅名標の読みが「ひこうじょまえ」と誤記されていた時期もあったことが記録に残っていますが、後に正しい表記に訂正されています。

周辺環境と現在の駅跡

駅周辺は、人の手の加わらない自然が多くを占めるエリアでした。整備されていない笹原や広大な原野が広がり、一部には牧場や湿地帯も見られました。目立った集落や施設はなく、文字通りの「飛行場前」というよりは、手つかずの自然の中にぽつんと存在する駅といった風情でした。

天北線が廃止された後、この地域の線路跡の多くは自転車道へと生まれ変わりました。特に、浜頓別駅跡から猿払駅跡に至る区間は「北オホーツクサイクリングロード」として整備され、かつての鉄路の上を多くのサイクリストが駆け抜けています。

飛行場前駅の跡地も、このサイクリングロードの沿線に位置しています。2001年、2010年、2011年といった時期の調査や報告によれば、サイクリングロードの脇に、木製だったホームの枠組みや、かつて駅名標が掲げられていたであろう柱の枠のみが、周囲の笹に覆われながらも残存している様子が確認されています。2009年の報告では、廃止から16年が経過した1993年の時点と比較して、ホームの天板部分が崩れ落ち、笹に深く埋もれている状態であったことが記されており、時間の経過と共に自然に還りつつある様子が伺えます。ホームの骨組みには、廃品となったレールが再利用されているという興味深い事実も知られています。

駅周辺には、国道238号線（オホーツクライン）が比較的近い位置を通っており、宗谷バスの「飛行場前」停留所が設置されていますが、これはかつての駅名をそのまま引き継いだものと考えられます。

- 隣の駅（廃止時点）

北海道旅客鉄道天北線
安別駅 - 飛行場前駅 - 浅茅野駅

- 参考文献・関連項目

- 日本の鉄道駅一覧
- 特定地方交通線

もう一度検索