饗庭氏直

饗庭氏直：美貌と武勇を兼ね備えた南北朝時代の武将

饗庭氏直（あえば うじなお/うじただ）は、南北朝時代に生きた武将です。特に、足利尊氏の寵臣「命鶴丸（みょうづるまる）」としての活躍が知られています。『太平記』では、「容貌当代無双の児」と評されるほどの美貌の持ち主でした。当初は直宣と名乗っていましたが、後に尊氏から偏諱を受け、尊宣と改名しました。

生涯

饗庭氏は、三河国幡豆郡饗庭御厨を拠点とする武士であり、大中臣氏を本姓としていました。

『太平記』によれば、建武2年（1335年）に生まれたと推定されています。正平3年/貞和4年（1348年）には、諏訪神社で行われた笠懸の射手を務めた記録が残っており、これが史料における初見です。その後は尊氏の側近として、重要な使者や取次ぎの役割を担いました。薩埵山合戦では部隊を率い、尊氏から感状を下されています。

正平6年/観応2年（1351年）2月には、尊氏と対立した直義との和平交渉に尽力しました。正平7年/文和元年（1352年）の武蔵野合戦では、わずか18歳にして三番隊六千人を率いるという大役を任されました。この部隊は、美しく飾り立てられた鎧を身につけ、兜には梅の花を挿していたため、『花一揆』と呼ばれました。『太平記』では、花一揆は思慮のない戦いをしたために児玉党に打ち破られたと記述されています。

正平9年/文和3年（1354年）に元服し、尊氏から偏諱を受けて「尊宣」と名乗り、五位近衛将監弾正少弼に叙任されました。正平11年/文和5年（1356年）には、斯波高経の降伏を働きかけ、高経を伴って降伏を実現させました。正平13年/延文3年（1358年）に尊氏が亡くなると出家し、以降は「尊宣入道」と呼ばれました。その後は斯波氏に近い動きを見せ、正平21年/貞治5年（1366年）に高経が失脚すると、連座を恐れて越前に没落したという噂も流れました。しかし、その後京都に戻ったと考えられ、弘和3年/永徳3年（1383年）3月2日には、足利義満に近侍していたという記録が残っています。

歌人としての才能

饗庭氏直は、武将としての活躍だけでなく、優れた歌人でもありました。『新後拾遺和歌集』には、彼の作品が収録されています。武勇に秀でるだけでなく、文化的な才能も持ち合わせていたことが伺えます。

まとめ

饗庭氏直は、南北朝時代の動乱期に、足利尊氏の側近として活躍した武将です。美貌と武勇を兼ね備え、歌人としても才能を発揮しました。彼の生涯は、『太平記』などの歴史書に記録され、後世に語り継がれています。

参考文献

小林輝久彦 「室町幕府奉公衆饗庭氏の基礎的研究」（2017年）
『太平記』（「武蔵野合戦事」）

もう一度検索