馮弘

馮弘（ふう こう）

馮弘は、五胡十六国時代の北燕の第3代天王（在位：? - 438年）です。

生涯

漢人で、晋の長楽郡信都県（現在の中国河北省衡水市冀州区）の出身です。馮跋の弟にあたります。元々は中山公の地位にありました。

兄である馮跋が重病に陥ると、その妾であった宋氏が、正当な後継者である馮翼を差し置いて自分の子を即位させようと画策しました。馮弘はこの混乱に乗じて宋氏を殺害し、実権を掌握します。兄の馮跋はこれを知り、ショックのあまり急死してしまいます。その後、馮弘は天王の位を簒奪し、馮翼をはじめとする馮跋の全ての子を殺害しました。

その後、南朝宋へ入朝し、燕王に封じられます（435年 - 436年）。

しかし、北魏の攻撃を受け、北燕は滅亡の危機に瀕します。436年（太興6年）に馮弘は高句麗へ亡命を余儀なくされます。しかし、高句麗での待遇に不満を抱いた馮弘は、南朝宋との連携を模索します。宋は王白駒を派遣して馮弘を迎え入れようとしますが、この動きを高句麗の長寿王は察知します。長寿王は孫漱と高仇に命じ、438年に馮弘を殺害させました。

考証

八王の乱以降、東晋、劉宋にかけて大規模な人口移動が発生しました。数十万人から百万人と推測される中国人の集団的な移住は、華北の戦乱と異民族支配から逃れるためのものでした。華北の混乱は北魏による華北統一、東魏と西魏の分裂、北周による再統一によって一段落しますが、この時期に多くの中国人が遼河を越えて高句麗へ流入しました。

前燕は苻堅率いる前秦によって滅ぼされますが、この過程で前燕の慕容評が高句麗に亡命しています。385年以前と推定される幽州・冀州の流民の高句麗への流入も、前秦と後燕の闘争の混乱の中で発生したと考えられます。また、北燕の馮丕と馮弘が首都の和龍城の住民を率いて高句麗に亡命したことも特筆されます。

高句麗が中国系移民を必要とした背景には、五胡十六国の動乱が、北魏による華北平定によって収拾されたものの、それは同時に北魏が高句麗にまで押し寄せることを意味したという事情があります。高句麗が北燕の馮弘を迎え入れたのは、東進する北魏の勢力拡大を牽制する意味合いがありました。馮弘を平郭に安置したのは、平郭が遼河に近く、遼西を狙える位置にあったためです。

劉宋、柔然、夏、北燕、北涼、氐、吐谷渾は北魏の侵攻を受け、甚大な被害を被りましたが、高句麗は東アジア諸国・諸民族が巻き込まれた中国の対立と距離を置くことができました。国境を接する華北の安定が高句麗政権安定の礎となった意義は大きく、この役割に中国系移民が貢献しました。華北の動乱による中国系移民の流入は、高句麗に新たな文化をもたらし、高句麗の国政整備および軍備拡張による国家発展に大きく寄与しました。

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