慕容評

慕容評（ぼよう ひょう）

慕容評（生没年不詳）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた政治家・武将であり、その時代を代表する奸臣として知られています。

生涯

前燕の部将として

慕容評は、鮮卑慕容部の大人である慕容廆（ぼよう かい）の子として生まれました。兄には慕容翰（ぼよう かん）、慕容皝（ぼよう こう）（前燕の文明帝）、慕容仁（ぼよう じん）、慕容昭（ぼよう しょう）がおり、弟には慕容幼（ぼよう よう）がいました。

咸康2年（336年）には軍師将軍に任じられ、慕容皝が慕容仁を討伐する際には昌黎（しょうり）から進軍しました。その後、前軍師となり、咸康5年（339年）には前燕に侵攻してきた石虎（せきこ）の将軍である石成（せきせい）率いる後趙軍を遼西（りょうせい）で破るという戦功を挙げました。建元元年（343年）には、慕容儁（ぼよう しゅん）に従って代（だい）を攻めました。

永和5年（349年）、甥の慕容儁が前燕を継承すると、輔弼将軍（ほひつしょうぐん）に任じられました。同年、石虎が死去し、後趙が内乱状態に陥ると、後趙の旧臣である賈堅（かけん）を攻めて捕らえ、章武郡太守（しょうぶぐんたいしゅ）に任じました。甥の慕容恪（ぼよう かく）が冉閔（ぜんびん）を捕らえると、永和8年（352年）8月には、その太子の冉智（ぜんち）らが拠る鄴（ぎょう）を攻め落とし、冉魏（ぜんぎ）を滅ぼして冉智を捕虜とするという功績を立てました。

元璽3年（354年）には、鎮南将軍（ちんなんしょうぐん）・都督秦雍益梁江揚荊徐兗豫十州諸軍事（ととくしんようえきりょうこうようけいじょえんよじっしゅうしょぐんじ）として洛水（らくすい）に鎮しました。その後、司徒（しと）・驃騎将軍（ひょうきしょうぐん）・上庸王（じょうようおう）となり、張平（ちょうへい）を討伐しましたが、逃走を許しました。光寿3年（359年）には、東晋の諸葛攸（しょかつゆう）が北伐を仕掛けてきた際、傅顔（ふがん）と共に5万の兵を率いて迎え撃ち、東阿（とうあ）においてこれを破りました。

国を傾けた奸臣として

建熙元年（360年）、甥の慕容儁が死去すると、その息子で幼い慕容暐（ぼよう い）が跡を継ぎ、慕容評は太傅（たいふ）となりました。しかし、国の実権は慕容儁の弟である慕容恪が太宰（たいさい）として掌握し、慕容評はそれに従う形で建熙5年（364年）から開始された南下拡大策に参加し、軍を率いて許昌（きょしょう）や汝南（じょなん）を攻略するなどの功績を挙げました。建熙8年（367年）5月に慕容恪が病死すると、慕容評が前燕の実権を握りました。

しかし、慕容評は腐敗政治を展開し、貪欲な性格から軍需物資を横領して私腹を肥やすなど、国家の衰退を招きました。この状況を見た東晋の司馬である桓温（かんおん）は、三度目の北伐を敢行し、前燕に侵入しました。弱体化した前燕軍は桓温の侵攻に敗戦を重ね、慕容暐は龍城（りゅうじょう）への遷都を検討するほどに追い詰められました。しかし、慕容暐の叔父である慕容垂（ぼよう すい）が桓温と対峙し、さらに前秦に領土割譲を条件に援軍を要請することで対抗しました。慕容垂は前秦軍が到着する前に桓温を撃破し、新たな実力者として前燕で台頭し始めましたが、慕容評はそれを憎み、慕容垂を排除しようと画策したため、慕容垂はやむなく前秦に亡命しました。

慕容垂の出奔により、前燕を支える大黒柱はいなくなり、逆に前秦は苻堅（ふけん）や王猛（おうもう）らによって攻勢に転じ、まずは洛陽（らくよう）が王猛によって奪われました。

建熙11年（370年）9月、前秦は王猛に6万の兵を与え、本格的な前燕侵略を開始しました。対する前燕も慕容評が40万の大軍を率いて対抗しましたが、軍需物資を横領する慕容評のために味方の士気は上がらず、晋陽（しんよう）や上党（じょうとう）などの主要都市が次々と攻略されました。慕容暐から責任を問われた慕容評は、兵力で優位に立っていることを過信して王猛との決戦に臨みましたが大敗を喫し、5万もの兵を失いました。さらに11月には、苻堅自らが率いる10万の兵による侵攻を受け、首都の鄴は陥落し、慕容暐は捕らえられて前秦の首都である長安（ちょうあん）に連行され、前燕は滅亡しました。

慕容評は鄴が陥落する前に逃亡し、高句麗（こうくり）に亡命しました。しかし、前秦の游撃将軍（ゆうげきしょうぐん）である郭慶（かくけい）が龍城に迫り、高句麗に圧力をかけると、高句麗は前秦との関係を優先し、慕容評の身柄を拘束して前秦に送還しました。苻堅は慕容評を給事（きゅうじ）に任命しましたが、かつて慕容評によって国を追われた甥の慕容垂が苻堅に対し、「慕容評は聖朝の穢れである」として誅殺を願い出ました。苻堅は慕容評を殺すことはしませんでしたが、朝廷から閉め出し、范陽郡太守（はんようぐんたいしゅ）に任じました。

脚注

注釈

[参考文献]
* 三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』（東方書店、2002年2月）

もう一度検索