高良山神籠石

高良山神籠石とは

高良山神籠石（こうらさんこうごいし）は、福岡県久留米市御井町にある古代の山城跡です。この遺跡は、筑紫平野に突出する耳納山地の先端、高良山の西側斜面に位置しています。標高312.3メートルの高良山に築かれたこの城は、文献には記録されていない神籠石系山城の一つであり、その名称は後世に付けられたものです。高良山城とも呼ばれることもあります。

この遺跡は、土塁を山上に巡らせて構築され、谷部には石塁を用いた水門が設けられています。特に土塁の基底部に残る列石は良好な状態で保存されており、この列石が「神籠石」と誤って呼ばれたことから、遺跡名が「高良山神籠石」として定着しました。また、文献に記録のない古代山城を指す「神籠石系山城」という遺跡区分の名称も、この遺跡が由来となっています。

神籠石論争の中心

高良山神籠石は、明治から昭和期にかけて繰り広げられた「神籠石論争」の中心となった遺跡としても知られています。この論争では、列石遺構の解釈をめぐり、山城説と霊域説の二つの見解が対立しました。最終的には、他の遺跡の発掘調査の結果から山城説が有力となり、決着しました。

歴史

高良山城は、文献に記録がないため、その築城時期や目的は正確には分かっていません。しかし、663年の白村江の戦い頃の朝鮮半島情勢が緊張した時期に、九州北部や瀬戸内、近畿地方で古代山城の築城が盛んに行われたことから、高良山城もその一つと考えられています。この山城は、筑後国府跡の前身官衙や西海道、筑後川を抑える要衝に位置し、周辺では同時期の水城状遺構も確認されています。

築城時期については、『日本書紀』に記された658年の「繕修城柵断塞山川」という記事を神籠石系山城の築城や改築とする説がありますが、この説には異論も存在します。また、高良山城の北半部の城壁が未発見であることから、679年の筑紫大地震によって崩壊したとする説も出ており、その場合は679年以前の築城が示唆されます。

さらに、『続日本紀』には、699年に「三野、稲積二城」の修築を命じたという記述がありますが、この二城の所在地は不明です。しかし、近年では「三野」が「耳納」に通じることから、三野城を高良山城とする説も出ています。

また、高良山には高良大社が鎮座しており、この神社は奈良時代以前から存在していたと考えられています。古代山城に式内社が重複する例は他にもあり、これは機能しなくなった古代山城が神聖化された結果とする説があります。

中世から近世

鎌倉時代後期に成立した『高良玉垂宮縁起』には、列石遺構を「八葉の石畳」、高良玉垂神の磐座を「神籠石」として記載しています。江戸時代中期の『筑後志』では、列石遺構が「神籠石」として初めて記録され、幕末の『筑後国郡誌』では「神籠石」とも「八葉石」とも呼ばれ、名称に混乱が生じていました。

近代以降

1898年、小林庄次郎が列石遺構を霊域を示すものとして「神籠石」と紹介しました。その後、1900年に八木奘三郎が山城説を提唱し、霊域説と山城説の間で論争が繰り広げられました。1960年代の他の遺跡の発掘調査の結果、山城説が有力となり、論争は終結しました。1953年には、「高良山神籠石」として国の史跡に指定されています。

遺構

高良山城の城壁は、全長2.5-3キロメートルに及び、城内面積は約355,000平方メートルです。5つの峰々を巡り、2ヶ所の谷を取り込んだ馬蹄形をしています。城壁は、基本的に内托式の土塁で、谷部では石塁の水門となっています。現在、南半部に列石線が残るものの、北半部では確認されていません。土塁の基礎となる列石は、平均80センチメートルの方形の切石で、直列に並べられています。北谷と勢至堂山には、城壁がL字形に屈折する箇所があり、望楼が存在した可能性が指摘されています。また、北半部の城壁が認められない理由は、地形説や地震による崩壊説などがあります。

水門は北谷と南谷に存在したとされていますが、北谷のものは現存せず、南谷にのみ残っています。南谷の水門は崩れていますが、長さ約7-9メートル、基底部幅約9メートル、高さ約3メートルを測ります。

文化財

高良山神籠石は、1953年11月14日に国の史跡に指定され、その後も範囲が追加指定されています。現在、高良大社の宝物館では、高良山神籠石に関する資料が展示されています。

現地情報

高良山神籠石は、福岡県久留米市御井町に位置しています。公共交通機関を利用する場合は、久留米駅から西鉄バスに乗り、「御井町」バス停で下車し、そこから徒歩約20分でアクセスできます。

周辺には、高良大社や筑後国府跡、筑後国分寺跡など、歴史的な文化財が点在しています。

まとめ

高良山神籠石は、古代の山城の姿を今に伝える貴重な遺跡です。その特異な構造や歴史は、古代日本の姿を考える上で非常に重要な手がかりとなります。ぜひ一度、足を運んで古代のロマンを感じてみてください。

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