鬼頭数雄

鬼頭数雄：努力と才能が織りなす、いぶし銀の野球人生

鬼頭数雄（きとう かずお）は、1917年4月25日生まれ、愛知県名古屋市出身のプロ野球選手である。少年時代から野球の才能を発揮し、名古屋八熊小学校時代には野口明とバッテリーを組み、全国大会でベスト8入りを果たす。その後、中京商業に進学し、同校が3連覇を達成した全国中等学校優勝野球大会にも出場、伝説として語り継がれる中京商対明石中延長25回試合にも「9番・センター」で先発出場した。

高校卒業後、日本大学に進学するが、1936年に大東京軍（後のライオン軍）が結成されると、大学を中退して入団。同年春季から中堅手のレギュラーに抜擢され、クリーンナップを任される活躍を見せた。さらに、鬼頭は左投げでありながら二塁手を務めた初の選手として、野球史にその名を刻んだ。これは当時非常に珍しいことであり、その後、山田伝、西本幸雄らも二塁手を経験しているものの、2017年現在でもNPBではわずか3人しかいない記録である。

1937年には左翼手に転向。打順も上位を打ち、ほぼ全試合に出場。春季リーグでは打率.275（10位）、秋季リーグでは打率.321（2位）と高い打率を記録。春季リーグでは当時の最多記録となる52単打を放ち、秋季リーグでは島秀之助（名古屋金鯱軍）と盗塁王のタイトルを分け合った。春秋を通じて放った127安打は、戦前の年間最多安打記録という驚異的な数字を残した。

1939年からは主に四番打者として活躍し、打率.304で打撃成績5位に入る。そして迎えた1940年。この年はリーグ全体の打率が.206と投手有利の時代でありながら、鬼頭は巨人の川上哲治と共に3割台の打率を維持し、激しい首位打者争いを繰り広げた。この争いは、日本プロ野球史上初のタイトル争いとも称された。春季は鬼頭がリード、夏季は川上が逆転と、両者は抜きつ抜かれつのデッドヒートを展開。最終的には、鬼頭が打率.321で川上哲治（.311）を僅差で抑え、首位打者を獲得。ベストナインにも選出された。さらに、この年は所属チームであるライオンズの勝率が.240だったにも関わらず、鬼頭は.321という高打率を記録した。所属チームの勝率を上回る打率で首位打者を獲得した選手は、プロ野球史上でも非常に珍しく、1944年の岡村俊昭（近畿日本）、2008年の内川聖一（横浜）しかいない。興味深いことに、鬼頭と岡村は1941年に同じチームメイトでもあった。また、この年の124安打、13三塁打は、前年の川上哲治の記録を更新する戦前のシーズン最多記録であった。

1941年には南海へ移籍するも、前年の勢いは見せず、打率.199と苦戦した。1942年には応召され、1944年7月、マリアナ諸島沖で戦死。27歳の若さでその生涯を閉じた。戦死公報が届いたのは、それから約1年後の1945年5月であった。東京ドーム敷地内にある鎮魂の碑には、鬼頭数雄の名前が刻まれている。

鬼頭数雄の打撃スタイルは、華やかさとは無縁の、いぶし銀のようなものだったと言われる。小柄な体格ながら、柔らかい打撃フォームで好球必打。その裏には、ライバルである川上哲治をも凌駕するほどの努力があったという。彼の野球人生は、才能と努力を兼ね備えた、真のプロ野球選手の姿を私たちに教えてくれる。

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