五井松平家

五井松平家

五井松平家は、三河国宝飯郡五井（現在の愛知県蒲郡市五井町）を拠点とした松平氏の庶流です。始祖は松平信光の七男とされる松平忠景で、深溝松平家はこの家から分かれました。『寛政重修諸家譜』の編纂時点では、5500石を領する嫡流をはじめ、旗本として3家が続いています。

歴史

発祥と深溝家の分出

『寛政重修諸家譜』によると、五井松平家の初代は松平信光の七男・松平忠景（初名：元芳）です。二代目の松平元心は、松平長親の命により深溝城を攻略した際、その功績を弟の松平忠定に譲りました。忠定は深溝城を与えられ、深溝松平家の祖となったとされています。

ただし、『寛永諸家系図伝』では、五井・深溝松平家の祖先の名前を「弥三郎元芳」とし、その二男の名を「大炊助忠景」としています。この「大炊助忠景」の子が忠定であり、深溝家の家祖とされています。『寛政譜』編纂時に、信光の子「弥三郎元芳」と忠定の父「大炊助忠景」を同一人物とし、「弥三郎元芳」は「大炊助忠景」の前名とする系譜が採用されました。

一次史料からは、「忠景」は信光の子ではなく、孫世代以降の人物と見られています。大永3年から6年（1523年 - 1526年）頃に深溝松平家の当主であったという説も存在します。

長沢松平家や形原松平家など、松平信光の子を祖とする松平家の一族は多いですが、初期の事績は曖昧な点が多く残されています。江戸幕府草創の頃、これらの家は初代が松平の遠い祖先と繋がっている程度の認識で、初代が松平嫡流の何代目とどのような血縁関係にあったかについて、詳細な詮索は行われていなかったと考えられます。

三代目とされる松平信長は、松平信定（桜井松平家）との抗争の中で松平広忠に従いました。四代目の松平忠次は、二度にわたり織田信秀の攻撃を防ぐ武功を立てましたが（安城合戦）、天文16年（1547年）に松平信孝（三木松平家）との戦いで戦死しました。

五井松平家二代とされる元心は、初め松平太郎左衛門尉長勝を名乗ったとされますが、これは松平太郎左衛門尉家（松平郷松平家）の二代当主と同名です。

五代景忠以降

幼少で家督を継いだ五代目の松平景忠は、永禄3年（1560年）の丸根攻め以降、徳川家康に仕え、数々の戦いに参戦しました。長篠の戦いでは、景忠とその息子の伊昌が長篠城に救援のため入城し、籠城戦を戦い抜きました。天正18年（1590年）に家康が関東に入国すると、六代目となる伊昌は下総国に2000石の知行地を与えられ、後に海上郡に飯沼陣屋（現在の銚子市陣屋町）を築いて移りました。

七代目の松平忠実の時代には、二代将軍・徳川秀忠から加増を受け、6000石の寄合となりました。八代目の松平伊耀は、弟の忠尚に500石を分知したため、知行高は5500石となりました。

十代目の松平忠明のとき、知行地を遠江国に移され、志都呂陣屋（現在の浜松市中央区志都呂）を拠点としました。十一代目松平忠根は、徳川吉宗および徳川家治の御側を務め、その妻は徳川家治と千代姫の乳母として召し出されました。十二代目松平忠寄も徳川家治の御側を務めています。

分家

六代目・伊昌の二男である松平宗治は徳川忠長に仕えましたが、忠長の改易により浪人生活を送りました。その後、館林徳川家（徳川綱吉）に仕え、綱吉が江戸城に入ると幕臣に転じ、旗本家として家系を繋ぎました。この家からは、盗賊改・佐渡奉行・勘定奉行などを歴任した松平忠陸が出ています。

七代目・忠実の二男である松平忠尚は書院番として出仕し、500石を知行していましたが、父の遺領から500石を分知されたため、都合1000石となりました。養子の則采が500石を加増され、1500石となっています。

家紋

『寛政譜』によると、旗本3家はともに「丸に一葉の葡萄」を家紋として用いています。元々は葵紋を使用していましたが、憚って葡萄の葉に改めたと伝えられています。

このほか、鳩酸草（かたばみ）紋も使用しており、2家（嫡流である図書忠命家、および与次右衛門忠洪家）は「丸に鳩酸草」、1家（弥九郎忠順家）が「鳩酸草」を使用しています。

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