鶏足寺 (長浜市)

鶏足寺（けいそくじ）

鶏足寺は、滋賀県長浜市に位置する真言宗豊山派の寺院で、山号を己高山と称します。己高山は古くから山岳信仰の霊地として知られ、その山中に鶏足寺はありました。かつては壮大な伽藍を誇っていましたが、昭和8年（1933年）に焼失し、現在は事実上廃寺となっています。しかし、寺に伝来した貴重な仏像は山麓の収蔵庫に移され、地元住民の手によって大切に管理されています。また、旧飯福寺は紅葉の名所として有名で、秋には多くの観光客がその美しい景観を求めて訪れます。鶏足寺は、びわ湖百八霊場の第30番札所としても知られています。

歴史

己高山は、旧木之本町の東方に位置し、山頂付近と西麓には古代から中世にかけて多くの寺院が建立され、天台系山岳仏教の聖地として栄えました。これらの寺院は、近代以降に山麓へと移転するか、廃絶しています。応永14年（1407年）に記された『己高山縁起』によると、己高山は近江国の鬼門（北東）に位置し、奈良時代に行基と泰澄によって開かれたと伝えられています。

鶏足寺は、己高山の中心寺院であった観音寺の別院として創建されたとされており、伝承によれば天平7年（735年）に行基によって開基されました。その後荒廃しましたが、延暦18年（799年）に最澄によって再興されたと伝えられています。文永6年（1269年）には、下野国・薬師寺の慈猛によって、それまで天台宗と真言宗の兼帯であったものが真言宗へと改宗されました。

奈良・興福寺に属する寺院を記した『興福寺官務牒疏』（嘉吉元年・1441年）には、己高山の五箇寺として法華寺、石道寺、観音寺、高尾寺、安楽寺の名が挙げられており、観音寺の別院として鶏足寺、飯福寺、円満寺が記録されています。

鶏足寺の寺院跡は、己高山の山頂近くに存在します。また、山麓の古橋地区から徒歩約15分の場所にも、「鶏足寺（旧飯福寺）」と称される寺跡があり、現在は紅葉の名所として多くの人々が訪れます。

山麓の古橋地区にある与志漏神社境内には、薬師堂や大日堂のほか、己高閣と世代閣という2棟の収蔵庫が建てられています。これらの収蔵庫には、鶏足寺や関連寺院に伝わった仏像などが収蔵・公開されており、特に指定文化財の仏像の所有者名義は「鶏足寺」となっています。

文化財

鶏足寺の仏像は、己高閣と世代閣に安置されています。己高閣は昭和38年（1963年）、世代閣は平成元年（1989年）に地元有志によって建てられました。己高閣には、鶏足寺の本尊である十一面観音像や七仏薬師像などが安置されています。一方、世代閣はもともとこの地にあった戸岩寺の仏像を収蔵する施設で、薬師如来像、十二神将像、菩薩立像（魚籃観音）、十社権現像などが安置されています。

重要文化財

木造十一面観音立像: 平安時代、10世紀頃に制作されたとされる仏像です。
木造薬師如来立像: 平安時代初期に制作されたとされ、奈良時代の作風を強く残しつつも、平安時代初期の特色である太づくりで大腿部の量感を強調した造形が特徴です。己高山にあった法華寺の本尊とされています。
木心乾漆十二神将立像 3躯: 平安時代初期に制作されたとされる仏像です。

滋賀県指定文化財

木造七仏薬師如来像: 中尊は12世紀中期から後半、脇侍は中尊の右横にある一体を除き13世紀、右横の一体のみ15世紀の作とされています。全てカヤ材で素地仕上げです。光背・台座は江戸時代頃に補作されたものです。中尊のみ一木造で、他は割矧造です。己高閣が建築される前は大日堂に安置されており、明治22年（1889年）の時点では「神使熊山法花寺」の旧本尊と伝えられていました。七仏薬師像としては、一尊七仏薬師と七躯分造する二つの形式があり、本像は後者の代表的な作例の一つです。
木造菩薩立像（魚籃観音）: 平安時代、9～10世紀の作とされ、通称「魚籃観音」として知られていますが、左手に下げている魚籠は後補であり、本来の像名は定かではありません。胸の厚みと大腿部の盛り上がりを強調した作風は平安時代初期の特色を示しています。
木造十社権現像: 木造の十社権現像です。

交通

己高閣および世代閣: JR北陸本線木ノ本駅からバスに乗車し、古橋バス停で下車後すぐです。
鶏足寺跡: 同バス停より徒歩約15分です。

参考文献

『日本歴史地名大系滋賀県の地名』、平凡社
田中日佐夫『仏像のある風景』、駸々堂、1989、pp.320 - 329
大石眞人『近江路の古寺を歩く』、山と渓谷社、1997

外部リンク

紅葉のじゅうたん、住民の願い込め 長浜・鶏足寺 - YouTube（朝日新聞社提供、2019年11月29日公開）

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