鶴屋喜右衛門

鶴屋喜右衛門：江戸時代の出版界を彩った名版元

江戸時代から明治時代初期にかけて活躍した版元、鶴屋喜右衛門。その名は、当時隆盛を極めた版元・蔦重と肩を並べるほど、広く知られていました。京都の書物問屋から江戸に進出し、3代にわたって数々の浮世絵や書籍を世に送り出した、出版史に名を刻む存在です。

華麗なる版元としての歩み

鶴屋喜右衛門は、寛永年間から幕末まで続いた京都の本家から江戸へ進出。万治年間から明治時代にかけて、版元として精力的に活動しました。その版元としての活動は多岐に渡り、菱川師宣の版画から、鳥居清倍、鳥居清峰らの作品を含む漆絵や紅摺絵、さらに浄瑠璃本や絵本、合巻など、多様なジャンルの出版を手掛けています。

特に錦絵の分野では、勝川春潮、北尾政美、勝川春英といった当時の第一線で活躍する絵師の作品を数多く世に出しました。その顧客層は広く、喜多川歌麿、菊川英山、歌川広重、歌川国貞といった、誰もが知る名だたる絵師の作品も鶴屋喜右衛門の版元から出版されています。

版元としての拠点も複数持ち、大伝馬町、常盤橋御門、元浜町、新大坂町、石町と、江戸の主要な地域で営業を展開していました。

3代目と『絵本千本桜』

3代目鶴屋喜右衛門は、歌川豊国の挿絵による『絵本千本桜』を出版。これは滝沢馬琴の代作ともいわれ、大きな話題を呼びました。しかし、その隆盛は長くは続きませんでした。

文政の大火と天保の改革

文政12年（1829年）の文政の大火で類焼したものの、再建を果たした鶴屋喜右衛門。その後、柳亭種彦作の『偐紫田舎源氏』を出版し、再び成功を収めます。しかし、天保の改革による弾圧を受け、同書の出版が禁じられたことで、版元としての勢いは衰え始めます。

天保4年（1833年）には、新興の版元・保永堂とともに歌川広重の『東海道五十三次』全55図を出版しました。しかし同年、鶴屋喜右衛門主人が急死。続く天保5年（1834年）の大火で店舗が焼失したことをきっかけに、『東海道五十三次』の出版は保永堂へと引き継がれ、鶴屋喜右衛門は歴史の舞台から姿を消しました。

主な作品

鶴屋喜右衛門が出版した作品は実に多岐に渡ります。その中には、現在も高い評価を受けている名作も含まれています。以下はそのほんの一部です。

菱川師宣『江戸雀』
鳥居清倍『市川ゑび蔵の丑の刻参り』
鳥居清峰『由良之助遊興の図』
勝川春潮『てうしやひな雀』
北尾政美『浮絵仮名手本忠臣蔵』
勝川春英『三世市川八百蔵の助六』
喜多川歌麿『青楼仁和嘉女芸者之部』
歌川広重『東海道五拾三次之内』（保永堂と合版）
* 歌川国貞『隅田川晩夏の景』

まとめ

鶴屋喜右衛門は、江戸時代の出版文化に大きな足跡を残した版元でした。数々の名作を世に送り出し、浮世絵の隆盛に貢献した功績は、今もなお高く評価されています。その栄枯盛衰は、時代の変化と出版業界の激しさ、そして自然災害の脅威を物語る、貴重な歴史の一端と言えるでしょう。 彼らが出版した作品は、現代においても貴重な文化遺産として、多くの人々を魅了し続けています。 様々な困難を乗り越えながらも、時代の最先端を行く版元として、その存在感を示した鶴屋喜右衛門の物語は、現代の出版業界にとっても重要な教訓を与えてくれます。

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