麻生家氏

麻生家氏：戦国時代を駆け抜けた筑前国衆の生涯

麻生家氏は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけての武将で、筑前国遠賀郡を拠点とした国人領主・麻生氏の第19代当主です。花尾城を居城とし、戦国時代の激しい動乱の中で、その生涯を駆け抜けました。

生い立ちと小早川氏との関係

麻生家氏は、麻生隆実の子として生まれました。天正11年（1583年）には楠橋へ軍事行動を起こしており、その際の感状に記された花押が小早川隆景の花押によく似ていることが指摘されています。このことから、家氏が早くから小早川氏との連携を意識していたことが窺えます。

天正13年（1585年）に父・隆実が亡くなると家督を相続。その際、小早川隆景、黒田孝高、安国寺恵瓊らから豊臣秀吉への取り成しを約束され、毛利輝元からも家督相続安堵の約束を得ています。これらの動きから、麻生氏が毛利氏、小早川氏といった有力大名の影響下にあったことがわかります。

豊臣秀吉の九州平定と筑後国への移封

天正14年（1586年）からの豊臣秀吉による九州平定では、宗像氏と共に毛利氏に従って出陣し、小早川隆景の軍に属して香春岳城攻めに参加しました。また、以前から対立していた同族の麻生鎮里と戦い、勝利を収めています。

九州平定後、天正15年（1587年）に九州の諸勢力の封域が定められると、家氏は小早川隆景の与力として筑後国への領地替えを命じられ、三井郡と生葉郡で合計4600石を与えられました。これにより、麻生氏は長年本拠としてきた筑前国遠賀郡を離れることになります。

筑後国に移った後の麻生氏は、秀吉の命を受けた小早川隆景によって領主権が制約され、知行地の分散化も進められました。これは、隆景が与力への介入を強めていたことの表れと言えるでしょう。

関ヶ原の戦いと黒田氏への仕官、そして麻生家の再興

慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦い後、黒田長政が筑前国に入国すると、家氏は黒田家の客分となり、馬飼料として1500石を与えられました。しかし、後に黒田家を離れ、唐津藩主・寺沢広高の客分となっています。

一方、家氏の弟である麻生家勝は黒田長政に仕え、福岡藩における麻生家を再興しました。家勝は慶長9年（1604年）に黒田長政から初めて知行宛行状を発給され、以後は家勝の子孫が福岡藩士として続いていくことになります。

晩年と家督の譲渡

慶長17年（1612年）11月15日、家氏は養子とした弟の麻生家長に、麻生氏の初代当主・麻生朝長以来の系図や書状類を譲り渡しました。没年は不詳です。

麻生家氏は、戦国時代の動乱の中で、その勢力を維持するために様々な選択を迫られました。小早川氏、毛利氏といった有力大名との関係を深め、豊臣政権下では筑後国への移封を経験。関ヶ原の戦い後には黒田氏に仕えましたが、最終的には弟の家勝が福岡藩で麻生家を再興することとなりました。その生涯は、戦国時代の国人領主の苦難と生き残りをかけた戦略を象徴していると言えるでしょう。

参考文献
九州史料刊行会編『九州史料叢書 第17 麻生文書』、1966年。国立国会図書館デジタルコレクション
中山重記「史料紹介 豊前国宇佐郡麻生仁人文書」 大分県地方史研究会『大分県地方史』第84号、1976年12月。
桑田和明「豊臣政権下、九州における「与力」「与力・合宿」編成について」九州史学研究会編『九州史学』第82号、1985年3月。
北九州市史編さん委員会編『北九州市史 古代・中世』、1992年1月。
本多博之「小早川秀秋の筑前支配と石高制」九州史学研究会編『九州史学』第117号、1997年9月。
三浦尚司編『豊前国戦国事典』海鳥社、2018年11月。

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