1932年の日本競馬

1932年の日本競馬界

1932年（昭和7年）の日本競馬は、近代競馬の夜明けを告げる重要な出来事が数多く発生した一年でした。この年、日本の競馬界は大きな転換期を迎え、後の発展へと繋がる基盤整備が進められました。馬齢は当時の旧表記に基づき記述します。

主な出来事

年の始まりとなる1月から3月にかけては、まず阪神競馬倶楽部で競馬法施行10周年を祝う記念臨時競馬が開催され、競馬界の節目が祝われました。また、制度改革に向けた動きとして、中山競馬倶楽部から提案された新呼馬制度の廃止と年齢別制度への移行案について、帝国競馬協会で本格的な協議が開始されました。畜産局からは、馬体測定の方法や基準に関する詳細な通牒が出され、競走馬の管理基準が明確化されました。さらに、現在の東京競馬場となる新府中競馬場の建設が清水組によって着工され、その地鎮祭が執り行われました。この時期には、関東の馬主たちが規約を改正し、大日本馬主倶楽部を設立するなど、馬主団体の再編も進みました。

春から夏にかけての最も特筆すべき出来事は、4月24日に目黒競馬場で開催された第1回東京優駿大競走です。現在の日本ダービーの礎となったこの歴史的な競走で、ワカタカが初代優勝馬となり、函館孫作騎手とともにその名を刻みました。これは日本の競馬におけるクラシック競走体系の幕開けであり、以降、この競走は日本競馬の象徴となります。また、この時期には、審判などで問題が頻発していた速歩競走の改善を図るため、畜産局作成の『速歩競走に関する研究』と題された資料が帝国競馬協会から配布され、問題解消に向けた取り組みが始まりました。

夏から秋にかけては、様々な課題への対応が迫られました。7月には小倉競馬倶楽部が税務署による臨検を受け、勝馬投票券への印紙税適用が問題となりましたが、後に畜産局長から印紙税法は適用されない旨の通牒が出され、決着しました。この時期、中山競馬倶楽部でも競馬法施行10周年記念臨時競馬が開催されました。畜産局長は、速歩馬の能力基準を具体的に示すとともに、秋季競馬からは分割競走を廃止するよう通牒を出し、番組編成の効率化を図りました。また、帝国競馬協会では、中間種の障碍競走について協議が行われ、新たな競走体系の模索が進みました。9月には、新潟競馬場で不正競走疑惑が持ち上がり、騎手や関係者が処分されるという事件が発生しました（ハイブレッド事件）。これは競馬の信頼性に関わる問題として、大きな波紋を呼びました。

秋から年末にかけては、日本の馬政全体に関わる重要な動きがありました。10月には陸軍省が地方馬の一斉調査を実施し、馬資源の把握に努めました。同月、「馬政調査会」の官制が公布され、設置されたこの会議体では、将来的な馬政第2次計画の準備に向けた話し合いが開始されました。新潟競馬での不正競走事件に関連して、当初処分されなかった調教師に対しても、畜産局長からの指示により処分が下されました。帝国競馬協会は、職員をイギリス、フランス、ドイツに留学させ、海外の先進的な競馬施行方法を学ばせるなど、国際的な知見の導入にも積極的でした。11月には、障碍競走の距離基準が見直され、長距離の競走が義務付けられるとともに、専用馬場の整備が指示されました。また、繋駕速歩競走での失格問題が国会で取り上げられる事態に発展し、これが後の競馬統制議論の端緒となるなど、競馬界を取り巻く環境が大きく変化していく兆しが見られました。12月には、第1回の馬政調査会が開催され、馬政の将来像について本格的な議論が始まりました。

この他の出来事としては、東京競馬倶楽部がこの年から目黒記念を年に2回開催するようになったことや、日本レース・クラブが育成牧場を開設したことが挙げられます。また、繁殖力の向上を目指し、アスフォードとペパーミントという2頭の種牡馬が海外から輸入され、国内の種馬所に配付されました。

主な競走成績

第1回東京優駿大競走（目黒競馬場・4月24日） 優勝 : ワカタカ（騎手 : 函館孫作）

この年に誕生した主な競走馬・人物

競走馬

3月9日 - ガヴアナー
3月13日 - 月友
3月22日 - クレオパトラトマス
3月24日 - エレギヤラトマス
不明 - セフト

人物

1月28日 - 久保田敏夫
4月10日 - 諏訪富三
6月19日 - 森安弘昭
10月14日 - 黒坂洋基
12月3日 - 坂田正行
12月15日 - 飯塚好次

この年に死去した主な人物

* 8月8日 - 植田繁太郎（騎手）

1932年は、日本の競馬が近代的な体系へと移行していく上で、制度、施設、競走、そして馬資源の全てにおいて、重要な布石が打たれた年と言えるでしょう。第1回東京優駿の開催は、その後の日本競馬の方向性を決定づける象徴的な出来事となりました。

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