1937年の航空

1937年：航空史における転換点

1937年は、航空技術の発展、長距離飛行能力の飛躍的な向上、そして航空産業の構造変化が同時に進行した、航空史において極めて重要な一年として記憶されています。また、世界各地で発生した紛争において、航空機が軍事的な役割を大きく拡大させた時期でもありました。

技術革新と記録達成

この年、航空技術は様々な面で進歩を見せました。特筆すべきは、現代航空機の礎となるジェットエンジンの開発です。英国では、フランク・ホイットルが4月12日に航空用ジェットエンジンの地上試験を成功させ、未来の高速飛行への道が開かれました。

新しい動力源の探求も進み、ドイツでは3月にロケット動力実験機ハインケル He HC-112が初飛行を遂げました。これはメチルアルコールを主燃料とする液体燃料ロケットを搭載した機体であり、航空機の可能性を広げる試みでした。高高度飛行技術も発展し、イタリアのマリオ・ペッツィ中佐は5月8日、カプロニCa.161で15,655メートルの高度記録を樹立しました。また、アメリカ合衆国では与圧キャビンを備えた実験機ロッキードXC-35が5月7日に初めて空を舞い、高高度環境での快適性・安全性向上に向けた開発が進みました。

長距離飛行の分野では、複数の画期的な記録が誕生しました。1月19日には、ハワード・ヒューズがロサンゼルスとニューヨーク間を7時間28分という驚異的な速度で飛行しました。日本では、飯沼正明飛行士と塚越賢爾機関士が操る「神風」号が、4月6日から9日にかけて東京からロンドンまでの15,356キロメートルを51時間17分という当時世界最速記録で走破。これは日本の航空技術の高さを世界に示しました。ソビエト連邦も長距離飛行で大きな成果を挙げ、6月18日から20日にはヴァレリー・チカロフらが北極を越えてモスクワからワシントン州ヴァンクーバーまで飛行。さらに7月12日から14日には、ミハイル・グロモフらがANT-25でモスクワからカリフォルニア州サン・ジャシントまで10,148キロメートルを無着陸飛行し、新たな長距離記録を樹立しました。また、極地への飛行も進み、5月21日にはツポレフANT-6が北極点からわずか20キロメートルの地点に着陸しました。

産業構造の変化と新組織の設立

各国の航空産業もこの年に大きな動きを見せました。スウェーデンでは航空機メーカーSAABが設立され、同国の航空史における重要な一歩となりました。日本では、川崎重工業の飛行機部門が独立し、川崎航空機工業株式会社が誕生しました。フランスでは重工業の国営化政策に伴い、南東部の航空機メーカーが統合されてSNCASE（Société nationale des constructions aéronautiques du sud-est）が発足しました。カナダでは9月1日にエア・カナダが設立され、国内および国際航空路の発展を担うことになりました。これらの動きは、増大する航空機の需要に応えるための産業基盤強化や再編の動きを反映しています。

戦争における航空機の役割増大

国際情勢が緊迫化する中で、航空機は軍事においてより重要な役割を果たすようになりました。スペイン内戦では、4月26日にコンドル軍団によるゲルニカ爆撃が行われ、航空機による無差別爆撃の悲劇を世界に知らしめました。また、人民戦線軍の航空機が国民戦線軍の軍艦エスパーニャを撃沈するなど、対艦攻撃能力も示されました。トルコで発生したデルシムの反乱では、トルコ軍最初の女性パイロットであるサビハ・ギョクチェンが実戦に参加しています。アジアでは7月12日に日華事変が勃発し、日本軍は空襲を開始、航空戦が本格化しました。中華民国を支援するため、10月21日からはソビエト空軍の志願隊が派遣され、国際的な航空戦の様相も呈しました。中華民国空軍のエースパイロット、劉粋剛が10月25日に戦死するなど、個々の戦闘でも激しい戦いがありました。

その他の出来事

悲劇的な出来事も発生しました。5月6日、アメリカのニュージャージー州レイクハースト海軍航空基地に到着したドイツの巨大硬式飛行船ツェッペリンLZ129「ヒンデンブルク」が炎上。この事故により多数の犠牲者が出、硬式飛行船による大陸間定期航路の時代は事実上終焉を迎えました。この飛行船は水素ガスを使用しており、火災の原因は塗料への静電気放電が引火したためとされています。また、著名な女性飛行家アメリア・イアハートは7月3日、世界一周飛行中に太平洋上で行方不明となり、航空史における大きな謎として残っています。長距離航空路の開拓を示す出来事としては、10月1日にイギリスから南アフリカのヨハネスバーグまでのシュレシンガーレースが行われ、チャールズ・W・A・スコットらが優勝しました。

功績を称える

この年の航空界の功績を称え、ハーモン・トロフィーはヘンリー・T・メリルとジーン・バテンに、ナショナル・トロフィーはジャクリーン・コクランとハワード・ヒューズに贈られました。イギリス飛行クラブ金賞はジーン・バテンが受賞。デラボー賞はモスクワからサン・ジャシントへの長距離飛行を成功させたミハイル・グロモフらに授与されました。

1937年は、人類が空を征服する歩みを加速させた年であると同時に、その技術が戦争に利用される現実も突きつけられた、複雑な様相を呈した一年でした。

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