1965年の文学

1965年（昭和40年）は、日本の文学界にとって多くの出来事があり、特に著名な作家たちの訃報が相次ぐ一方で、新しい動きも生まれた記憶に残る一年となりました。

主な出来事

この年の文学界は、まず年始の大きなニュースから始まりました。1月19日には、前年下半期にあたる第52回芥川龍之介賞および直木三十五賞の選考会が開かれ、直木賞は決定したものの、芥川賞は該当作なしという結果になりました。

夏には文学界の巨星たちの訃報が相次ぎました。7月28日には探偵小説の大家、江戸川乱歩氏が70歳で、そのわずか二日後の7月30日には日本文学の巨匠、谷崎潤一郎氏が79歳で逝去しました。さらに8月17日には高見順氏もこの世を去り、日本文学界は大きな悲しみに包まれました。

一方で、新しい動きもありました。7月には山崎豊子氏の小説『白い巨塔』（新潮社刊）が刊行され、医療界を舞台にしたこの作品は大きな話題を呼び、1965年の年間ベストセラー総合9位にランクインするなど、多くの読者を獲得しました。

8月26日には、新しい文学者の組織として日本民主主義文学同盟が創立されました。初代議長には江口渙氏が選出され、同年12月には機関誌『民主文学』が創刊されるなど、活発な活動が始まりました。

秋には、前月に逝去した谷崎潤一郎氏の功績を記念する新しい文学賞として、第1回谷崎潤一郎賞の選考会が9月に開催されました。

10月には、日本ペンクラブの会長が交代しました。長年会長を務めた川端康成氏が辞任し、後任として芹沢光治良氏が就任しました。

また、10月14日にはAP通信がストックホルムからの報道として、この年のノーベル文学賞の最終候補に三島由紀夫氏と、残念ながら前月に亡くなった谷崎潤一郎氏の名前が挙がっていると伝え、日本の文学界は大きな注目を集めました。

1965年の主な文学賞

芥川賞・直木賞
第52回（1964年下半期）：芥川龍之介賞は該当作なし。直木三十五賞は永井路子氏『炎環』、安西篤子氏「張少子の話」が受賞。
第53回（1965年上半期）：芥川龍之介賞は津村節子氏『玩具』が受賞。直木三十五賞は藤井重夫氏「虹」が受賞。
その他の賞
第1回谷崎潤一郎賞：小島信夫氏『抱擁家族』
第8回群像新人文学賞：黒部亨氏『砂の関係』
第20回文部省芸術祭賞：三島由紀夫氏『サド侯爵夫人』

1965年に刊行された主な書籍

小説・戯曲
安部公房『榎本武揚』
川端康成『美しさと哀しみと』『片腕』『たまゆら（上）』
小島信夫『抱擁家族』
三島由紀夫『音楽』『三熊野詣』『サド侯爵夫人』
山崎豊子『白い巨塔』
評論
三島由紀夫『目――ある芸術断想』
その他
安部公房『砂漠の思想』
伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』
坂東三津五郎『聞きかじり 見かじり 読みかじり』
広島市原爆体験記刊行会編『原爆体験記』
山本正秀『近代文体発生の史的研究』

1965年に亡くなった主な文学者

1965年は、日本だけでなく海外の文学界でも多くの著名な作家たちが永眠しました。

1月4日 - T・S・エリオット（イギリスの詩人・劇作家・批評家、ノーベル文学賞受賞者）、76歳没。
1月12日 - 大坪砂男（日本の探偵小説作家）、60歳没。
2月20日 - 山川方夫（日本の小説家）、34歳没。
5月3日 - 中勘助（日本の小説家・詩人）、79歳没。
6月5日 - エリナー・ファージョン（イギリスの児童文学作家・詩人）、84歳没。
7月28日 - 江戸川乱歩（日本の小説家）、70歳没。
7月30日 - 谷崎潤一郎（日本の小説家）、79歳没。
8月17日 - 高見順（日本の小説家）、58歳没。
10月14日 - ランダル・ジャレル（米国の詩人・文芸評論家）、51歳没。
* 12月16日 - サマセット・モーム（イギリスの小説家・劇作家）、91歳没。

このように、1965年は日本文学の歴史において、多くの偉大な作家たちが時代を去ると同時に、新たな才能の登場や文学賞の創設など、世代交代と多様な動きが顕著に見られた一年であったと言えるでしょう。

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