1971年イタリアグランプリ

1971年イタリアグランプリ：0.01秒差の死闘とティレルの栄光

1971年9月5日、イタリア・モンツァ・サーキット。第9戦イタリアグランプリは、F1の歴史に刻まれる劇的なレースとして幕を開けました。

このレースを制したのは、ピーター・ゲシンでした。しかし、彼の勝利は、単なる優勝という枠を超えた、劇的な結末を物語っています。2位となったロニー・ピーターソンとの差は、わずか0.01秒。F1史上最も僅差のフィニッシュだったのです。上位5台が0.61秒差という、手に汗握る展開に観客は魅了されました。3位はフランソワ・セベール、4位はマイク・ヘイルウッド、5位はハウデン・ガンレイという結果でした。

このレースの背景には、コンストラクターズチャンピオンシップの行方がありました。首位のティレルは、2位のフェラーリに19点のリードを保っていました。しかし、フェラーリのドライバーが5位以内に入賞しなければ、ティレルが初戴冠という状況でした。このプレッシャーが、レースをさらにスリリングなものにしました。

レースウィークの前には、非選手権レースであるインターナショナル・ゴールドカップが開催され、ジョン・サーティースが優勝しています。このレースは、F1の熱気をさらに高める一助となりました。

イタリアGPは、各チーム、各ドライバーにとって様々な状況が重なっていました。フェラーリは、312B2とファイアストンタイヤの相性の悪さに苦戦し、シーズン中盤以降はティレルや他のチームに遅れを取っていました。エンツォ・フェラーリは、モンツァへの出場をさえ見送ろうかと考えるほどでした。しかし、開発責任者の尽力と主催者の説得もあり、出場を決断。エースのジャッキー・イクスは旧型312Bを使用し、レガツォーニは312B2を使用しました。また、ライバルのグッドイヤータイヤを試験的に装着したことで、ファイアストンとの間には緊張感が走りました。

チーム・ロータスは、前年イタリアGPでのヨッヘン・リントの事故による法的問題により欠場。代わりにピーター・ウォーが所有する「ワールドワイド・レーシング」が、エマーソン・フィッティパルディを擁して出走しました。フィッティパルディは、このレースが唯一のフォード・コスワース・DFVエンジン搭載車以外のレースとなりました。

マクラーレンはデニス・ハルムの欠場により、ジャッキー・オリバーのみ参加。マトラは吸気ダクトと潤滑システムを改良した新型エンジンで参戦しましたが、ジャン＝ピエール・ベルトワーズが出場停止だったため、クリス・エイモンのみが出走。サーティースはマイク・ヘイルウッドを起用し、6年ぶりのF1復帰となりました。その他、ジャン＝ピエール・ジャリエやシルビオ・モーザーなど、様々なドライバーが出場しました。

予選では、マトラのクリス・エイモンがポールポジションを獲得。フェラーリのジャッキー・イクス、BRMのジョー・シフェール、ハウデン・ガンレイが続く展開となりました。

決勝レースは夏の強い日差しと暑さの中、スタート。クレイ・レガツォーニが一時トップに立ちましたが、レガツォーニ、ピーターソン、スチュワート、セベール、シフェール、イクス、ガンレイ、ゲシンによる激しいスリップストリーム合戦が展開されました。激しい順位の変動の中、スチュワートとイクスはエンジントラブルでリタイア。レガツォーニも同様にリタイアしました。ヘイルウッドとエイモンがトップ集団に加わりましたが、シフェールはオーバーヒートに苦しみ、エイモンもバイザーを失うアクシデントに見舞われました。

最後までトップ争いは続きましたが、最終的にゲシンが優勝。ゲシンとピーターソンの差は0.01秒という驚異的な結果でした。ゲシンは、この勝利がF1での唯一の優勝となりました。彼の平均速度242.616km/hは、当時のF1史上最速記録で、32年間も破られませんでした。

セベールの3位入賞により、ティレルは初のコンストラクターズチャンピオンを獲得しました。このレースは、F1の歴史に名を残す、興奮とドラマに満ちたレースでした。翌年からモンツァ・サーキットにシケインが設置されることになり、シケインのないモンツァでの最後のF1レースとなりました。

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