1980年の日本

1980年は、和暦では昭和55年、皇紀2640年、干支は庚申にあたる年です。この年は、政治、経済、社会、文化など、多岐にわたる分野で大きな出来事がありました。

政治面では、野党による内閣不信任決議案可決をきっかけに衆議院が解散され、「ハプニング解散」と呼ばれました。これにより、史上初の衆議院と参議院の同日選挙が実施されました。選挙期間中に大平正芳首相が急逝するという未曽有の事態を経て、鈴木善幸内閣が発足しています。経済分野では、この年、日本の自動車生産台数がついにアメリカを抜き、世界一となりました。これは日本の経済力が国際的に認められる大きな出来事であり、「自動車大国」としての地位を確固たるものとしました。

社会的な側面では、犯罪や災害が人々に衝撃を与えました。身代金目的の誘拐事件が多発し、当時の過去最多となる13件を記録。痛ましいことに、被害者のうち複数の方が命を落とす結果となりました。また、夏には「この年の三大災害」と呼ばれる、富士山での落石事故、静岡駅前地下街でのガス爆発事故、新宿西口でのバス放火事件が相次いで発生し、多くの犠牲者を出しました。これらの事件や事故は社会に不安をもたらし、ジャーナリストによって「一富士、二地下、三バスビ」といった造語も生まれました。自然災害では、12月から翌年にかけて「五六豪雪」と呼ばれる記録的な大雪と低温が日本海側を中心に発生し、交通網の麻痺や建物の倒壊など、甚大な被害をもたらしています。

文化や流行の面では、多様な新しい動きが見られました。若者の間では原宿を中心に「竹の子族」が登場し、カラフルな衣装と独特のダンスで話題となりました。玩具市場では、任天堂の携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」、世界中で人気を博した立体パズル「ルービックキューブ」、そしてミニカーにゼンマイを搭載したタカラの「チョロQ」が大ヒットを記録。前年に発売されたソニーのポータブルカセットプレーヤー「ウォークマン」もこの年に大流行し、音楽の楽しみ方を大きく変えました。音楽シーンでは、山口百恵さんが惜しまれつつ芸能界を引退しましたが、一方で松田聖子さんや田原俊彦さんといった新たなアイドルが続々とデビューし、「80年代アイドル」の時代が幕を開けました。また、イエロー・マジック・オーケストラ（YMO）の海外での人気が日本にも波及し、テクノポップブームが起こりました。ファッションでは、横浜元町発祥の「ハマトラ」（横浜トラディショナル）スタイルが全国的なブームとなり、女子大生を中心に支持を集めました。この年の流行語には、「五無主義」（無気力、無責任、無関心に無感動、無作法を加えたもの）や、若者言葉を揶揄した「三語族」、そして漫才コンビのツービートが広めた「赤信号、みんなで渡ればこわくない」などがあります。

月ごとの主要な出来事としては、1月にサンケイ新聞が拉致事件を初めて報じ、ポール・マッカートニーが大麻所持で逮捕されるという国際的なニュースがありました。4月には広島市が政令指定都市に移行し、大塚製薬がスポーツドリンクの先駆けとなる「ポカリスエット」を発売。7月にはルービックキューブが日本で発売され、全国的な人気を博しました。また、同年設立された株式会社サンクス（現ファミリーマート）の活動も始まりました。10月には国鉄の大規模なダイヤ改正が行われ、横須賀線と東海道本線の分離運転などが開始されました。11月には山口百恵さんと三浦友和さんの結婚というビッグニュースがありました。

スポーツ界では、政治情勢の影響を受け、日本のモスクワオリンピック不参加が決定されました。しかし、冬季のレークプラシッドオリンピックや、冬季・夏季のパラリンピックには日本選手団が参加しています。プロ野球では広島東洋カープが日本シリーズを制し2連覇を達成。読売ジャイアンツの王貞治選手が通算868本塁打という世界記録を樹立し、惜しまれつつ現役を引退しました。また、ロッテオリオンズの張本勲選手が史上初の通算3000本安打を達成しています。高校野球では、春の選抜大会は高知商業が、夏の選手権大会は横浜高校がそれぞれ優勝しました。この年の4月からは、後に「松坂世代」と呼ばれる多くのプロ野球選手となる世代が誕生しています。

この年には、後に俳優として活躍する玉木宏さんや竹内結子さん、アイドルグループ嵐の大野智さん、プロ野球選手の松坂大輔さんなど、多くの著名人が誕生しています。また、落語家の林家三平さんや歌手の越路吹雪さんといった昭和を代表する芸能人が惜しまれつつ世を去りました。

1980年は、日本の経済力が向上する一方で、社会的な不安も影を落とすなど、光と影が交錯する一年でした。文化面では新しい技術や流行が生まれ、後の時代につながる多くの動きが始まっています。

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