1984年の航空

1984年は、航空技術の進歩、新たな飛行記録の達成、そして宇宙開発における特筆すべき出来事が相次いだ、航空史において重要な節目となる一年でした。

年初、1月にはアメリカ海兵隊への垂直離着陸機AV-8B ハリアーIIの部隊配備が開始され、運用能力が確立されました。続いて2月、ヨーロッパのアエロスパシアル社（現在のエアバス・ヘリコプターズ社）が開発した高性能な軍用ヘリコプター、AS 565 パンテルが最初の飛行試験を行いました。5月には、スイスのピラタス・エアクラフト社製の最新練習機PC-9が初飛行し、その後の各国のパイロット養成に貢献することになります。同じく5月には、イタリアとブラジルが共同で開発した汎用性の高い全天候攻撃機AMXも、その性能を実証する最初の飛行を行いました。

6月は特に航空界にとって印象深い出来事が続きました。フロンティア航空は、運航に関わる全クルーを女性のみで構成した初の商業旅客便を運航し、航空分野におけるジェンダー平等の進展を示す歴史的な一歩を記しました。また、人力飛行機の分野では、ドイツのエンジニアであるグンター・ローヘルト氏率いるチームが製作した「マスキュレアー1」が、特定コースでの8の字飛行に成功し、アメリカ人以外として初めてクレーマー・8の字飛行賞を獲得するという快挙を達成しました。同月には、現在世界的な航空会社へと成長したヴァージン・アトランティック航空がその運航を開始しました。さらに、後に無給油・無着陸世界一周飛行という前人未到の記録を樹立する実験機、ルータン ボイジャー|ルータン_ボイジャーも記念すべき初飛行を遂げました。

7月には、フランスの主力戦闘機ミラージュ2000が部隊への配備が開始され、実戦運用段階に入りました。宇宙開発においても歴史が動きました。ソビエト連邦の宇宙飛行士、スベトラーナ・サビツカヤ氏が、女性として史上初めて宇宙空間での船外活動（宇宙遊泳）に成功し、人類の宇宙活動における新たなフロンティアを開きました。

8月16日には、地域路線向けに広く採用されることになる双発ターボプロップ機、ATR 42が初飛行しました。同じ日には、中国の哈爾浜飛機製造公司が開発した小型旅客機Y-12も初飛行を記録し、中国の航空産業の発展を示しました。月末の8月30日には、アメリカのスペースシャトル計画に加わった3機目のオービター、ディスカバリー号が最初の宇宙ミッションに乗り出しました。

9月には、アメリカのジョセフ・キッティンガー氏が、気球を用いて単独で大西洋を横断するという驚異的な飛行を成功させました。また、フランスのダッソー・アヴィアシオン社が開発した長距離ビジネスジェット、ファルコン 900が初飛行し、高性能プライベート機の市場に新たな選択肢を提供しました。10月に入ると、アメリカのスペースシャトル・チャレンジャー計画において、宇宙飛行士キャサリン・D・サリバン氏がアメリカ人女性として初めて宇宙遊泳を実施しました。また、アルゼンチン製の練習機FMA IA 63 パンパも初飛行しました。

年末の12月には、アメリカ航空宇宙局（NASA）が、航空機の構造安全性向上に関する貴重なデータを得るため、ボーイング720を用いた制御された衝突実験を行いました。12月14日には、ユニークな前進翼を持つ実験機、グラマンX-29が初飛行し、次世代航空機の空力特性研究が進められました。

この年は、航空界における様々な功績が称えられました。権威あるハーモン・トロフィーはバリー・ゴールドウォーター氏とブルック・ナップ氏に、デラボー賞は宇宙飛行の功績によりロバート・クリッペン氏、レオニード・キジム氏、そして女性初の宇宙遊泳を成し遂げたスベトラーナ・サビツカヤ氏に贈られました。また、FAI・ゴールド・エア・メダルはJ.D.R.タタ氏が、イギリス飛行クラブ金賞はパラシュート分野の功労者であるクランシー・ライオール氏が受賞しました。

1984年は、このように多岐にわたる分野で航空および宇宙開発の進歩が顕著に見られ、未来への礎が築かれた実り多い一年であったと言えるでしょう。

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