1985年の世界ラリー選手権

1985年の世界ラリー選手権（WRC）は、FIA世界ラリー選手権の歴史において重要な転換期となったシーズンでした。前年までと同様、全12戦で激戦が繰り広げられ、プジョー・タルボ・スポールチームのティモ・サロネンが、アウディ勢を抑え、ドライバーズチャンピオンの栄冠を手にしました。同時に、プジョーはマニュファクチャラーズタイトルも獲得し、WRCにおける存在感を大きく示しました。

このシーズンの主役は、何と言ってもプジョー・205ターボ16でした。前シーズンの後半からその速さを示していた205ターボ16は、今シーズン、アリ・バタネンを筆頭にフル参戦。バタネンは開幕戦モンテカルロで優勝を飾ると、続くスウェーデンでも勝利し、シーズン序盤をリードしました。プジョーチームも、ライバルのアウディを圧倒する勢いを見せていました。

しかし、このシーズンは勝利だけでなく、悲劇も持ち合わせていました。5月のツール・ド・コルスにおいて、ランチア・ラリー037を駆るアッティリオ・ベッテガ選手が事故により亡くなるという痛ましい出来事が発生しました。この事故は、グループBマシンの安全性に関する議論を巻き起こすこととなり、翌年のグループB禁止決定へと繋がっていく重要な出来事となりました。皮肉にも、翌年のツール・ド・コルスでも、ヘンリ・トイヴォネン選手が事故死しています。

シーズン中盤、アルゼンチンでバタネンが大きな事故に遭い、負傷しました。この事故により、バタネンは戦線を離脱することとなり、プジョーはサロネンにタイトル獲得の期待を託すことになります。サロネンは期待に応え、5勝を挙げ、見事ドライバーズチャンピオンに輝きました。

一方、アウディ・スポーツは、プジョー205ターボ16の圧倒的な速さと、社内におけるラリープログラムへの関与縮小という、二重の苦境に直面していました。グループBマシンの危険性に対する懸念の高まりも、アウディの苦戦に拍車をかけました。スティグ・ブロンクビストとヴァルター・ロールは健闘しましたが、プジョーには敵わず、それぞれ2位と3位となりました。アウディのWRCにおけるグループB最後の勝利は、ロールがサンレモで挙げた1勝のみでした。

ランチア・マルティーニチームも、このシーズンは苦戦を強いられました。後輪駆動のランチア・ラリー037は1勝も挙げることができず、トイヴォネン選手も事故によりシーズンを棒に振るなど、厳しいシーズンとなりました。しかし、シーズン終盤に投入された4輪駆動のデルタS4は、最終戦でトイヴォネン選手の手によって優勝を獲得。チームにとって、翌シーズンへの希望の光となりました。

この他、オースチン・ローバーは、3リッターV6エンジンを搭載したメトロ6R4でRACラリーに参戦し、表彰台を獲得するなど、各チームがしのぎを削るシーズンとなりました。

1985年シーズンのWRCは、プジョーの躍進、そしてグループBマシンの危険性を改めて認識させられる、ドラマと悲劇が詰まったシーズンでした。その後のWRCの歴史に大きな影響を与えたシーズンであると言えるでしょう。ドライバーズチャンピオンシップ、マニュファクチャラーズチャンピオンシップの順位、各戦の結果、そして参加チームやドライバーの詳細については、当時の記録や専門文献を参照ください。

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