2012年の文学

2012年の文学

2012年（平成24年）は、日本の文学界および世界の文学に多くの動きが見られた年です。年間を通じて様々な賞が授与され、注目すべき新作が数多く刊行されました。一方で、長年にわたり文壇を支えてきた作家や評論家たちの訃報も相次ぎ、文学史における世代交代を感じさせる一面もありました。

文学界の主な出来事

この年、日本の文学賞を代表する芥川龍之介賞と直木三十五賞の選考委員会は、例年通り1月と6月に開催されました。2011年下半期を対象とする第146回の選考会は1月17日に行われ、2012年上半期を対象とする第147回の選考会は6月17日に実施されています。

出版市場においては、阿川佐和子氏のエッセイ『聞く力』（文春新書）が1月20日に発売され、大きな反響を呼びました。この作品は、株式会社トーハンが発表した2012年の年間ベストセラーランキングで総合第1位を獲得する快挙を達成し、さらに翌2013年のランキングでも総合第3位に食い込むなど、異例のロングセラーとなりました。

主な文学賞

2012年には、国内外の様々な文学賞で受賞作が発表されました。特に日本の主要な文学賞では、以下のような作品や作家が栄誉に輝きました。

日本国内

第146回 芥川龍之介賞・直木三十五賞（2011年下半期）
芥川賞：円城塔氏の『道化師の蝶』と田中慎弥氏の『共喰い』が同時受賞しました。
直木賞：葉室麟氏の『蜩ノ記』が受賞しました。
第147回 芥川龍之介賞・直木三十五賞（2012年上半期）
芥川賞：鹿島田真希氏の『冥土めぐり』が選ばれました。
直木賞：辻村深月氏の『鍵のない夢を見る』が受賞しました。

その他、主要な文学賞の受賞は以下の通りです。

第48回 谷崎潤一郎賞：高橋源一郎氏『さよならクリストファー・ロビン』
第40回 泉鏡花文学賞：角田光代氏『かなたの子』
第55回 群像新人文学賞：該当作なし
第34回 野間文芸新人賞：日和聡子氏『螺法四千年記』
第46回 吉川英治文学賞：夢枕獏氏『大江戸釣客伝』
第33回 吉川英治文学新人賞：西村健氏『地の底のヤマ』
第66回 毎日出版文化賞（文学・芸術部門）：赤坂真理氏『東京プリズン』
第11回 小林秀雄賞：小澤征爾氏・村上春樹氏『小澤征爾さんと、音楽について話をする』
第9回 本屋大賞：三浦しをん氏『舟を編む』

日本国外

ノーベル文学賞：中国の作家、莫言（ばく げん）氏に授与されました。
* ブッカー賞：イギリスの作家、ヒラリー・マンテル氏の『Bring up the Bodies』が受賞しました。

2012年に刊行された主な作品

この年には、様々なジャンルの注目作が世に送り出されました。小説分野では、円城塔氏と伊藤計劃氏による共作『屍者の帝国』や、小野不由美氏のホラー作品『残穢』、横山秀夫氏の警察小説『64（ロクヨン）』などが話題となりました。その他にも、相場英雄氏『震える牛』、角田光代氏『紙の月』、原田マハ氏『楽園のカンヴァス』、村田沙耶香氏『しろいろの街の、その骨の体温の』など、多くの作家が意欲的な作品を発表しました。

小説以外の分野では、内田樹氏の『街場の文体論』、高橋秀実氏の『「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』、安田浩一氏の『ネットと愛国』といった評論やノンフィクション、村上春樹氏のエッセイ『サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3』なども読者の関心を集めました。

文学界における訃報

2012年には、文学、思想、詩歌、評論など、様々な分野で長年にわたり活躍した多くの功労者が逝去されました。特に、思想家・詩人・評論家の吉本隆明氏（享年87、3月逝去）や、小説家・文芸評論家・翻訳家の丸谷才一氏（享年87、10月逝去）といった日本の文壇の巨星が相次いでこの世を去ったことは、大きな出来事として受け止められました。

国外では、SF小説の巨匠であるアメリカのレイ・ブラッドベリ氏（享年91、6月逝去）、世界的に愛される絵本作家のモーリス・センダック氏（享年83、5月逝去）、そして1996年にノーベル文学賞を受賞したポーランドの詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカ氏（享年88、2月逝去）などもこの年に亡くなっています。

他にも、日本の国文学者・小説家の岡松和夫氏、推理作家の河野典生氏、詩人の牟礼慶子氏、翻訳家の有田忠郎氏、歌人の安永蕗子氏、俳人の八田木枯氏など、多方面で文学に貢献した方々が惜しまれつつ旅立ちました。

2012年は、新たな文学的潮流が生まれつつも、長年の功績を残した世代への敬意と哀悼が交錯する、記憶に残る一年となりました。

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