2020年カラバサスヘリコプター墜落事故

2020年1月26日、カリフォルニア州カラバサスで発生したヘリコプター墜落事故は、世界中に衝撃を与えました。この事故では、元NBA ロサンゼルス・レイカーズのスター選手コービー・ブライアントと13歳の次女ジアナを含む9名全員が死亡するという悲劇に見舞われました。

事故の概要

事故は、ジョン・ウェイン空港からカマリロ空港へ向かっていたシコルスキー S-76B型ヘリコプターが、ロサンゼルスの北西約48キロメートルの地点に墜落したことで発生しました。このヘリコプターには、コービー・ブライアント、次女のジアナ、野球監督のジョン・アルトベッリとその家族、そして他の数名が搭乗していました。

事故機について

事故機であるシコルスキー S-76B（機体記号N72EX）は、かつてイリノイ州が所有し、州知事らの輸送に使用されていました。その後、アイランド・エクスプレス持株会社に登録され、座席数が12席から8席に削減されました。

アメリカのヘリコプターには、フライトデータレコーダー（FDR）とコックピットボイスレコーダー（CVR）の搭載が義務付けられていません。そのため、事故機には両方とも搭載されていませんでした。また、S-76Bには元々CVRが搭載されていましたが、アイランド・エクスプレスが機体を受け取った際に取り外されています。

さらに、事故機には地形認識警報システム（TAWS）が装備されていませんでした。国家運輸安全委員会（NTSB）は、過去の事故を受けてTAWSの装備を推奨していましたが、連邦航空局（FAA）は義務化していませんでした。

搭乗者

搭乗していたのは、パイロットのアラ・ゾバヤン、コービー・ブライアントと次女ジアナ、ジアナのチームメイトのアリッサ・アルトベッリとペイトン・チェスター、アリッサの両親ケリ・アルトベッリとジョン・アルトベッリ、ペイトンの母親サラ・チェスター、バスケットボールアシスタントコーチのクリスティーナ・モーゼルの9名でした。彼らは、コービーが設立したマンバ・スポーツ・アカデミーでのバスケットボールの試合に向かう途中でした。

事故発生までの経緯

2020年1月26日午前9時6分（太平洋標準時）、S-76Bはジョン・ウェイン空港を離陸し、カマリロ空港へ向かいました。コービーは前日にも同じルートで飛行していましたが、その際は問題なく着陸していました。この日のフライトはわずか30分の予定でしたが、目的地までの陸路がさらに20分かかるため、ニューポートビーチの自宅から空港までは2時間近くかかりました。

当日の気象状況

事故当日、ロサンゼルス市警察航空支援部は悪天候のためヘリコプターの飛行を中止していました。彼らの規則では、視程3.2キロメートル以上、雲底高度240メートル以上の条件を満たす必要がありました。

S-76Bが離陸した時点では、視程8キロメートル、雲底高度400メートルで、有視界飛行方式（VFR）で飛行していました。パイロットは計器飛行方式（IFR）を選択することもできましたが、許可されていませんでした。また、会社の運航証明書でもVFRのみが許可されていました。

墜落までの飛行経路

有視界飛行のため、S-76Bは雲の中や雲底付近を飛行することができず、高度240メートルで北西へ飛行を開始しました。通常、カマリロ空港へ向かう際は、ダウンタウン・ロサンゼルス上空で針路を西に変え、サンタモニカ山脈の上空を通過していましたが、当日は山脈に濃霧が立ち込めており、有視界飛行では通過できませんでした。

そのため、S-76Bは北西へ進み、ボイル・ハイツを通過し、州間高速道路5号線沿いに飛行を続けました。グレンデールに近づくと、パイロットはハリウッド・バーバンク空港管制にベンチュラ・フリーウェイ沿いに西へ飛行する許可を求めましたが、周辺の天候が悪く、計器飛行方式でないと飛行できなかったため、許可されませんでした。その後、旋回待機を経て管制空域への進入許可を得て高度を上げました。

その後、S-76Bは針路を西に変え、ロナルド・レーガン・フリーウェイに到達すると、ヴァン・ナイズ空港管制空域に入り、ベンチュラ・フリーウェイへの針路変更許可を得ました。そして、ベンチュラ・フリーウェイに沿って飛行中に、起伏の激しい地域に入りました。

午前9時44分、管制官はパイロットの高度が低く、レーダーで追跡できないと伝えました。パイロットは雲を避けるために高度を1,200メートルまで上昇すると報告しましたが、これが管制官との最後の交信となりました。その直後、S-76Bは上昇を始め、左旋回を開始し、その後急降下し、午前9時45分39秒に標高約331メートルの地点に墜落しました。

救助活動

墜落現場は、マウンテンバイカーグループが通報し、そのすぐそばに墜落しました。目撃者の証言によると、エンジンの異音や機体がかなりの速度で墜落していく様子が確認されました。墜落により火災が発生し、消火活動は困難を極めましたが、ロサンゼルス郡消防局によって鎮火されました。機体の残骸は広範囲に散乱しており、救助活動の結果、搭乗者全員の死亡が確認されました。

事故調査

墜落事故発生後、TMZが事故とコービーの死亡に関する最初のニュースを報じましたが、犠牲者の身元が確認される前だったため、地元当局から批判を受けました。その後、ロサンゼルス郡保安局と消防局が合同で記者会見を開き、FAAとNTSBによる事故調査が開始されました。

NTSBは事故原因を調査し、パイロットが有視界飛行方式の要件に従わず、濃い雲の中に入ったために空間識失調に陥り、機体の制御を失ったと結論づけました。また、パイロットが飛行を完了させようとするプレッシャーや、アイランド・エクスプレスの安全管理の不備も事故の要因として指摘されました。

追悼

コービーの訃報を受け、世界中で追悼の意が表されました。ステイプルズ・センターには即席の記念碑が作られ、グラミー賞授賞式では追悼パフォーマンスが行われました。また、世界各地のランドマークが紫色と金色にライトアップされました。

コービーとジアナは、ニューポートビーチのパシフィック・ビュー・メモリアル・パークに埋葬され、ステイプルズ・センターでは追悼式が開催されました。

バスケットボール界への影響

NBAコミッショナーのアダム・シルバーは、コービーの死を悼み、その功績を称えました。コービーの高校時代のコーチや、マイケル・ジョーダン、シャキール・オニールなど多くのバスケットボール関係者が、コービーの死を悼みました。多くのNBAチームが、24秒ヴァイオレーションや8秒ヴァイオレーションを意図的に行うことで追悼の意を表しました。

NBAオールスターゲームでは、コービー・ブライアント最優秀選手賞が創設され、選手たちはコービーとジアナの背番号を着用して試合に臨みました。

その他のスポーツ界への影響

MLB、NFL、NHLなど、他のスポーツ界もコービーへの追悼の意を表しました。スーパーボウルでは黙祷が捧げられ、プロレスやテニス、サッカーなどでもコービーへの敬意が示されました。

政治・社会への影響

アメリカ合衆国大統領や各界の政治家が、コービーの死を悼み、追悼の意を表しました。また、コービーゆかりの地である神戸市でも追悼のライトアップが実施されました。

映像化

この事故は、ドキュメンタリー番組「メーデー!:航空機事故の真実と真相」でも取り上げられました。

この事故は、スポーツ界だけでなく、社会全体に大きな影響を与え、多くの人々に深い悲しみをもたらしました。

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