2022年ロシアのウクライナ侵攻へのチェチェンの関与

2022年ロシアのウクライナ侵攻におけるチェチェンの関与

2022年のロシアによるウクライナ侵攻において、チェチェン共和国（以下、チェチェン）は複雑な役割を担い、国際社会から注目を集めました。チェチェンはロシア連邦内の共和国であり、その軍事部隊は侵攻において、親ロシア派と親ウクライナ派に分かれて戦闘に参加しました。この侵攻は、過去のチェチェン紛争と比較されることも多く、その背景には複雑な歴史的要因が絡み合っています。

親ロシア部隊の動向

2022年2月26日、チェチェンの首長ラムザン・カディロフは、チェチェン軍部隊がウクライナに配備されたと発表しました。彼は、「プーチン大統領は正しい決断を下し、我々はいかなる状況でも彼の命令を実行する」と述べ、ロシアへの忠誠を表明しました。同日、ロシアの国営メディアは、グロズヌイの広場に1万2000人のチェチェン兵が集結し、ウクライナへ向かう準備を進めている様子を報道しました。

しかし、その直後、2月27日にはウクライナ軍がキーウ近郊でチェチェン特殊部隊の大規模な車列を破壊したと発表し、カディロフ親衛隊の司令官であるマゴメド・トゥシャエフ将軍が戦死したと報じられました。その後、カディロフはロシア軍の行動が遅いと批判し、より積極的な作戦を要求しましたが、3月1日にはチェチェン兵2名が死亡、6名が負傷したことを発表しました。

3月3日には、チェチェン兵がウクライナのゼレンスキー大統領を暗殺する計画が暴露され、失敗に終わったと報道されました。また、3月14日にカディロフがホストメリにいると主張したものの、後日、彼のIPアドレスから実際にはグロズヌイにいたことが判明し、この主張は虚偽であったことが明らかになりました。その後、4月5日にはウクライナ海軍の兵士が降伏したとする映像を公開しましたが、その信憑性に疑問が呈されています。

6月下旬には、カディロフがチェチェン民族のみで構成される4つの新たな大隊を設立し、ウクライナへ派遣すると発表しました。9月初旬には、さらに2つのチェチェン大隊が派遣され、ロシアがハリコフ州から撤退する中で、チェチェン部隊が投入される様子が確認されました。

親ウクライナ部隊の動向

ロシアの侵攻に対抗するため、多くのチェチェン人グループがウクライナに移動し、あるいは新たに結成されました。これらの部隊は、ロシアとの戦いを継続し、チェチェンの独立という最終目標を達成するための手段として、ウクライナでの戦闘に参加しています。

これらのグループの中でも有名なのが、ジョハル・ドゥダエフ大隊とシェイク・マンスール大隊です。ジョハル・ドゥダエフ大隊は、2014年のドンバス戦争から活動を開始し、数百人の戦闘員を擁しています。シェイク・マンスール大隊は、イスラム主義者のメンバーを勧誘しているとして批判されています。また、シェイク・マンスール大隊は、シリアのイスラム主義組織Ajnad al-Kavkazのメンバーがウクライナでの戦闘に参加するのを支援しました。2022年7月には、チェチェン共和国本土に作戦を拡大することも発表しています。

この他にも、カムザット・ゲラエフ合同任務分遣隊や独立特殊任務大隊といった部隊がウクライナ側で戦っています。独立特殊任務大隊は、ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団の一部であり、チェチェン・イチケリア共和国の亡命政府の軍隊であると主張しています。これらの部隊は、ウクライナの反転攻勢にも参加しています。

反応とチェチェン紛争との比較

侵攻当初、ウクライナ国家親衛隊は、アゾフ大隊のメンバーが弾丸に豚脂を塗る映像を公開しました。これは、チェチェン兵を含むイスラム教徒の兵士を心理的に攻撃する意図があったと見られています。

多くの分析家は、カディロフツィ部隊が実際の戦闘よりも心理的な効果を狙っていると指摘しています。ロシアメディアは、チェチェン兵の存在そのものをウクライナ人に対する心理的武器として利用し、チェチェン紛争の恐怖を想起させようとしているという指摘もあります。また、チェチェン部隊の多くは、最前線から離れた場所で動画撮影に励んでおり、カディロフのイメージ向上に利用されているとの見方もあります。

多数の論評者は、今回のロシアのウクライナ侵攻を、1990年代のチェチェン紛争、特にグロズヌイの戦いと比較しています。ロシアの人権団体「メモリアル」のディレクター、アレクサンドル・チェルカソフは、プーチン大統領がウクライナで行った手法は、チェチェン紛争で用いたものと類似していると指摘しました。キングス・カレッジ・ロンドンのトレイシー・ジャーマンは、ロシア軍がチェチェン紛争における失敗を繰り返していると述べました。

ジャーナリストのニール・アシャーソンは、プーチン大統領の計画には、チェチェンのグロズヌイで行ったように、都市を包囲し、徹底的に砲撃することで軍事的勝利を得るという段階があるように見えると分析しています。これらの比較は、チェチェン紛争の歴史が、ウクライナにおける紛争の理解に重要な視点を与えていることを示唆しています。

チェチェンの関与は、単なる軍事的な側面だけでなく、歴史、文化、政治が複雑に絡み合った現象です。ウクライナ侵攻におけるチェチェンの役割は、今後の国際関係を考える上で、重要な教訓を提供してくれるでしょう。

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