5つの管弦楽曲 (シェーンベルク)

5つの管弦楽曲 作品16

アルノルト・シェーンベルクが1909年に世に送り出した管弦楽曲『5つの管弦楽曲』作品16（独語原題：Fünf Orchesterstücke Op. 16）は、現代音楽がその扉を開き始めた時期における極めて重要な作品の一つです。後に『管弦楽のための5つの小品』とも呼ばれるこの楽曲は、従来の調性音楽の枠を超え、新しい音楽語法を模索するシェーンベルクの姿勢を鮮やかに示しています。初演は1912年に行われましたが、その後1922年に改訂版が作られ、さらに1949年には小規模な編成でも演奏できるよう編曲された版が登場するなど、作曲家自身による手直しも行われています。

この作品が持つ革新性は、後の世代の作曲家たちに大きな影響を与えました。アルバン・ベルクの『管弦楽のための3つの小品』やアントン・ヴェーベルンの『管弦楽のための6つの小品』といった同時代のウィーン楽派の作曲家たちはもちろん、遠く離れたイギリスのグスタヴ・ホルストによる組曲『惑星』に至るまで、その影響の広がりは注目に値します。

中でも歴史的に特に大きな意義を持つのが第3曲「色彩」です。この楽章は、楽音の高さよりも音色の変化や響きそのものを重視する「音響作曲法」の初期における代表的な例として知られています。その独創的な手法は、音楽大学における作曲科の学生たちがアナリーゼ（楽曲分析）を行う際の重要な課題とされることが多く、現代における管弦楽の書法を考える上での先駆的な試みとして、今日もなお研究対象となっています。また、この楽章が後にアメリカの作曲家モートン・フェルドマンの楽曲に見られる反復構造に影響を与えたという指摘もなされています。

本作の世界初演は、作曲から数年後の1912年9月3日にロンドンで行われました。指揮はヘンリー・ウッドが務め、クイーンズホール管弦楽団によって演奏されました。日本での初演は、さらに時を経て1971年12月6日、東京のNHKホールにて、オトマール・スウィトナー指揮、NHK交響楽団の演奏によって実現しています。

全曲の演奏時間は約18分程度です。オリジナルの大管弦楽版では4管編成を基盤としていますが、各楽曲によって使用される楽器の構成には若干の違いが見られます。

曲の構成

この作品は以下の5つの楽章から構成されています。

第1曲「予感」

「非常に速く」（Sehr rasch）と指示されたこの楽章は、唐突に現れる無調的なチェロの旋律で幕を開け、これに木管楽器群が複雑に絡み合います。音楽は一時的に速度を緩めますが、再び冒頭の速いテンポに戻り、チェロがオスティナート（執拗な反復音型）のための準備を進めます。やがて管弦楽全体がクライマックスへと高まり、分厚い響きによる全合奏に至った後、静かに終息を迎えます。

第2曲「過去」

「穏やかに」（Mässig）という指示を持つこの楽章は、比較的短い間奏曲的な性格を帯びており、次の楽章へのスムーズな繋ぎとしての役割を果たします。

第3曲「色彩」

同じく「穏やかに」（Mässig）と指示されるこの楽章こそが、本作の革新性を最も象徴する部分です。ここでは、従来のメロディーやハーモニーといった要素よりも、音色の微細な変化や響きそのものが主役となります。まるで息遣いのように揺れ動くオスティナート的な響きが特徴的で、時折、花火が弾けるような瞬間的な音響操作が挿入されます。前述の通り、音響作曲法の先駆例であり、モートン・フェルドマンの反復音楽にも影響を与えたとされています。

第4曲「急転」

再び「非常に速く」（Sehr rasch）の指示に戻るこの楽章は、アレグロのテンポによる無調様式の典型的な表現として教科書に載るほど強烈な序奏で始まります。シェーンベルクはここで様々な構造的な試みを行い、無調音楽における表現の可能性を追求しています。

第5曲「オブリガート・レチタティーヴォ」

「激しく動いて」（Bewegen）と指示されたこの最後の楽章「助奏付きレチタティーヴォ」は、全曲の締めくくりとしての後奏的な性格を持ちます。音楽的な重みという点では第2楽章に似ている側面もありますが、ここでも無調様式における多様な音の組み合わせや表現の探求が続けられており、シェーンベルクの飽くなき実験精神が感じられます。

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