6つの小品 (ヴェーベルン)

アントン・ウェーベルン『管弦楽のための6つの小品』作品6

『管弦楽のための6つの小品』（独: 6 Stücke für Orchester ）作品6は、オーストリアの作曲家アントン・ウェーベルンが1909年に作曲した管弦楽曲です。当初は4管編成の大オーケストラのために書かれましたが、1928年に2管編成に改訂されました。この改訂版は、ウェーベルンの師であるアルノルト・シェーンベルクに献呈されています。現在では、4管編成版と2管編成版の両方が演奏されています。

概要

この作品は全体が無調で書かれていますが、ウェーベルンの他の作品と比較すると比較的理解しやすい部類に入るとされています。1909年に作曲されたシェーンベルクの『管弦楽のための5つの小品』との関連性も指摘されています。ウェーベルンが23歳の時に経験した母親の死（1906年）が作品の背景にあり、叙情的ながらも全体として暗い雰囲気に包まれています。

各曲には隠された標題があり、1913年1月13日にウェーベルンがシェーンベルクに宛てた手紙や、1933年の全ドイツ音楽協会の音楽祭でのコメントから、その内容を推察することができます。以下にその標題をまとめます。

第1曲: 母親がまだ生きていてくれたら、という希望を持ちつつも、すでに痛ましい不幸と破局を予感している。
第2曲: ケルンテンへ向かう列車の中で真実を悟る。予感が現実となる。
第3曲: 母親の棺に置いたエリカ（ツツジ科の植物）の花の香り。
第4曲: 葬送行進曲。棺とともに墓地へ向かう。
第5曲、第6曲: 葬式の日の夜の不思議な気持ち。追憶と諦観。

各曲には具体的な標題は付けられておらず、第4曲のテンポ設定として「葬送行進曲」（marcia funebre）の指示があったのみでしたが、1928年の改訂でそれも削除され、「ごく普通の速度で」（Sehr mässig）に変更されました。

6つの曲はそれぞれ平均25小節程度と非常に短いですが、繊細で表情豊かな旋律、色彩的な楽器の組み合わせによって、密度の濃い内容と洗練された表現を成し遂げています。ウェーベルンの作風は「ピアニシモ・エスプレッシーヴォ」と表現されることがありますが、この作品でもその特徴が見られます。しかし、第2曲や第4曲では激しい強弱記号（ff や fff）も現れます。特に第4曲（葬送行進曲）の最後の2小節では、打楽器群が f から fff へとクレッシェンドし、圧倒的な迫力をもたらします。

演奏時間

演奏時間は約11分半から12分です。

初演

4管編成版: 1913年3月31日、ウィーン楽友協会にて、アルノルト・シェーンベルクの指揮で行われました。
2管編成版: 1929年1月27日、ベルリンにて、ヘルマン・シェルヘンの指揮で行われました。

編成

4管編成版 (原典版)

フルート4
ピッコロ2
アルトフルート1
オーボエ2
コーラングレ2
クラリネット3
Esクラリネット1
バスクラリネット2
ファゴット2
コントラファゴット1
ホルン6
トランペット6
トロンボーン6
チューバ1
ハープ2
チェレスタ1
ティンパニ3
トライアングル
グロッケンシュピール
ルーテ
シンバル
銅鑼
スネアドラム
バスドラム
低音の鐘2
弦五部

各曲ごとに使用楽器が大きく異なります。

2管編成版

フルート2
オーボエ2
クラリネット2
バスクラリネット1
ファゴット2
ホルン4
トランペット4
トロンボーン4
チューバ1
ハープ1
チェレスタ1
ティンパニ3
トライアングル
グロッケンシュピール
シンバル
銅鑼
スネアドラム
バスドラム
低音の鐘2
弦五部

作曲者自身による室内楽版(1920)

フルート
オーボエ
クラリネット
ヴァイオリン2
ヴィオラ
チェロ
コントラバス
ピアノ
ハルモニウム
打楽器（具体的な使用楽器は不明）

構成

第1曲 Etwas bewegte (Langsam)
第2曲 Bewegt
第3曲 Zart bewegt (mässig)
第4曲 Langsam, marcia funebre (Sehr mässig)
第5曲 Sehr Langsam
第6曲 Zart bewegt (Langsam)

評価

作曲家で哲学者のテオドール・アドルノは、この作品の演奏時間の短さについて「聴衆が知覚する前に沈黙へと置き去りにする、ショック的な短さ」と評しました。また、作品を支配するピアニッシモとフォルティッシモの極端な差については、第一次世界大戦などを比喩に用いながら、「繊細な魂のうごめきだけでなく、遠くから聞こえる無限に強力な爆音の脅威的な影である」と表現しました。

音楽学者の岡田暁生は、この作品の編成の大きさと演奏時間の短さについて、マーラーやシュトラウスのような大編成を使いながらも、本来1時間ほどかけて展開されるべき内容を数分に圧縮して爆発させていると指摘しました。

脚注

参考文献

岡田暁生『音楽の危機』中公新書、2020年。

外部リンク

* 6つの小品 作品6の楽譜) - 国際楽譜ライブラリープロジェクト。PDFとして無料で入手可能。

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