9.5mmフィルム

9.5mmフィルムとは

9. 5mmフィルムは、1922年にフランスのパテ社によって開発された、個人向けの映画用フィルム規格です。日本では「9ミリ半」とも呼ばれ親しまれてきました。このフィルムは、家庭用映画の普及に貢献し、その独特な特徴から現在でも愛好家が存在します。

概要

9.5mmフィルムの画面サイズは6.5×8.5mmです。フィルム幅が9.5mmであるにもかかわらず、画面サイズが8.5mmとなるのは、パーフォレーション（フィルムの穴）がフレームとフレームの間に入っているためです。これにより、有効な画面領域を最大限に確保しています。アスペクト比は1:1.307で、これはサイレント映画の標準サイズ（1:1.33）にほぼ適合しています。

パテベビー用のフィルムには、ニトロセルロースではなく、トリアセチルセルロースが使用されています。これにより、以前のフィルムに比べて耐燃性が向上しましたが、経年劣化によるビネガーシンドロームのリスクも存在します。劇場用映画フィルムがアセテートに切り替わるよりも早く安全フィルムを使用していた点は、特筆すべきです。

現在でも9.5mmフィルムの愛好家は多く、シネクラブが世界各地に存在します。国際9.5mm映画祭も開催され、このフィルム規格の歴史を記念しています。公式な生フィルムの製造は終了しましたが、一部のラボラトリーが愛好家向けに製造・販売・現像を行っています。

映画用フィルムとしての歴史

フランス

パテ社は1922年に9.5mmフィルム、撮影機、映写機を「パテベビー」ブランドで発売しました。フランスでは1980年代初頭まで撮影機が製造され、家庭用として長く使われていました。

アメリカ

アメリカでは、パテ社の米国法人を通じて1925年に9.5mmフィルムが導入されましたが、コダック社の8mmフィルムの普及により、1930年代には衰退しました。

日本

日本では、1924年に伴野文三郎商店がパテベビー映写機を輸入したのが始まりです。伴野商店は1930年代には9.5mm規格のアニメーションも制作しました。1927年には、ドキュメンタリー映画作家がこのフィルムでメーデーを撮影し、「玩具のカメラが武器になる」という言葉を残しています。1920年代から1930年代には、劇場用映画が家庭用に販売され普及しました。しかし、太平洋戦争の影響でフィルムが入手困難となり、戦後は16mmや8mmフィルムが普及したため、9.5mmフィルムは廃れていきました。

しかし近年、失われたと思われていた35mmネガ原版や上映用プリントが、9.5mmフィルムの形で発見される例が増加しています。小津安二郎監督の『和製喧嘩友達』、斎藤寅次郎監督の『石川五右ヱ門の法事』、伊藤大輔監督の『斬人斬馬剣』などがその代表例です。これらの作品は、デジタルスキャンによって復元され、家庭普及用の短縮版として貴重な存在となっています。長年小型映画の現像に携わった育映社がラボを閉鎖した後、IMAGICAウェストが9.5mmフィルム専用の機材を導入し、35mmフィルムへの復元を可能にしました。

発見された主な作品

『和製喧嘩友達』（小津安二郎監督、1929年公開、1997年発見・復元）
『石川五右ヱ門の法事』（斎藤寅次郎監督、1930年公開、同）
『本壘打』（熊谷久虎監督、1931年、同）
『突貫小僧』（小津安二郎監督、1929年公開、同）
『感激時代』（牛原虚彦監督、1928年公開、同）
『國士無双』（伊丹万作監督、1932年公開、1997年発見・復元、16mm版を足して2005年デジタル復元）
『斬人斬馬剣』（伊藤大輔監督、1929年公開、2002年発見）
『実録忠臣蔵』（池田富保監督、1926年公開、2005年以前に京都文化博物館が発見・復元）
『槍供養』（辻吉郎監督、1927年公開、2006年京都文化博物館が発見・復元）
『繪日傘 第二話 狸大盡』（金森万象監督、1930年公開、2005年京都文化博物館が発見・復元）
『月形半平太』（衣笠貞之助監督、1925年公開、2008年以前）
『地雷火組』（池田富保監督、1927年公開、2008年以前に発見・復元）
『弥次㐂多 伏見鳥羽の巻』（池田富保監督、1928年公開、2008年以前に発見・復元）
『怪傑夜叉王』（牧野省三監督、1926年公開、2008年大阪芸術大学が復元）
『荒木又右衛門』（池田富保監督、1925年公開、同）
『浄魂』（押本七之助監督、1927年公開、同）

これらの作品は、もともと1時間以上の長編映画でしたが、家庭用として約20分に短縮されたバージョンで発見されました。

写真用フィルムとしての利用

9.5mmフィルムは、1936年に開発された「ミノックスI型」にも採用されました。ミノックスフィルムと呼ばれ、写真サイズは8×11mmです。これは映画用とは異なり、フィルムを横向きに使用しています。現行モデルのミノックスCLX型でも9.5mmフィルムが使用されており、現在もこのサイズは「ミノックスフィルム」として利用されています。

9. 5mmフィルムは、映画用としては衰退したものの、その歴史的な価値と、現在でも写真用フィルムとして生き残っている点が注目されます。

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