A六番女学校

A六番女学校（エーろくばんじょがっこう、英: Presbyterian Mission Female Seminary）は、明治時代にアメリカ合衆国長老教会のミッションによって東京に設立された女子教育機関の一つです。現在の女子学院中学校・高等学校の源流となる学校群の一つであり、通称として「長老派女学校」とも呼ばれました。

設立と発展

学校の歴史は、1869年（明治2年）7月に来日したアメリカ合衆国長老教会の宣教師クリストファー・カロザースとその妻であるジュリア・カロザースによって始まります。元小学校教師であったジュリアは、夫と共に横浜から東京を視察。大学南校の教頭を務めていたグイド・フルベッキ宣教師からの助言を受け、東京での伝道活動に力を注ぐことを決意しました。

カロザース夫妻はジェームス・カーティス・ヘボンと共に東京に移り、築地の日本家屋を賃借して生活を始めます。当時、ジョン万次郎に代わる英語教師を探していた伊澤修二らの若者たちがカロザース夫妻のもとを訪れ、英語指導を求めたことをきっかけに、東京における最初のミッションスクールともいえる「カロザース塾」が開設されました。

翌1870年（明治3年）6月には、築地外国人居留地でミッションのための土地として6番地を購入。この地に2棟の宣教師館が建設され、同年10月に完成した宣教師館にカロザース夫妻は移り住みました。1871年（明治4年）、ジュリアは体調を崩して一時帰国しますが、この間に日本の女子教育の必要性を強く感じ、その使命を抱いて翌1872年（明治5年）3月に再来日します。再来日後、千村五郎によって連れてこられた2人の少女に対する教育から、ジュリアによる女子教育が本格的に始まりました。

築地での活動と「A六番」

女子教育が始まった矢先の1872年（明治5年）4月、銀座大火に関連する火災で築地居留地6番地の宣教師館が焼失してしまいます。夫妻は避難生活を経て、約1ヶ月後には仮のバラックを建てて元の場所に戻りました。そして、1873年（明治6年）2月には、ミッションの土地である6番地に自宅用のA棟と、他の宣教師のためのB棟という2棟の宣教師館を再建します。さらにジュリアは、ミッションの正式な同意を得る前に、小会堂を兼ねた教室や石造りの倉庫も独自に建設しました。自宅として使用していたA棟で女子生徒10名を集め、改めて女学校を再開します。この学校が、後に「A六番女学校」と呼ばれるようになったものです。この頃、後に活躍する出口せいなども6番館に寄宿して、ジュリアの指導を受けました。

1874年（明治7年）には、ジュリアが運営するこの女学校（A六番女学校）がアメリカ長老教会フィラデルフィア婦人伝道局の管轄下に入り、生徒数も23名に増加。「長老派女学校（Presbyterian Mission Female Seminary）」として正式に活動することになります。

対立と廃校

同じ頃、同じ6番地には、1873年（明治6年）に来日しB棟に入居したメアリー・パークとケイト・ヤングマンによって、長老教会ニューヨーク婦人伝道局の支援を受けた別の女子寄宿学校が開かれていました。この学校は「B六番女学校」、後の新栄女学校と呼ばれるようになります。メアリー・パークがタムソン宣教師と結婚して新栄教会との結びつきを強めたこともあり、カロザースとヤングマンの間には感情的な対立が生じるようになりました。カロザースは自身が設立した長老派女学校の正当性を主張し、ヤングマンの学校に廃校を求めるなど、両校の関係は険悪化しました。

このような状況の中、1876年（明治9年）1月4日、築地居留地6番で行われた在日ミッションの長老会において、「耶蘇」という日本語表記に関する問題などが原因で対立が激化し、ジュリア・カロザースがミッションを辞任することとなります。夫妻のミッション辞任は、長老派女学校の運営に大きな影響を与え、生徒の多くが退学を希望したため、学校は廃校となりました。

原女学校への継承と女子学院への発展

長老派女学校の廃校後、生徒の一部はジュリアの勧めに従ってヤングマンの女子寄宿学校へ転校しました。しかし、他の生徒たちは日本独立長老教会に加わったため、教会付属の新しい女学校を設立することになります。原胤昭や戸田欽堂らの出資を得て、銀座三十間堀に校舎を購入し、ジュリアを教師として招き、1876年に新たな女学校が開設されました。この学校は当初「成樹学校」と呼ばれましたが、後に校主の名前をとって「原女学校」と改称されます。

原女学校は、1878年（明治11年）に同じく築地6番地を源流とする新栄女学校（旧B六番女学校）と合併。さらに1890年（明治23年）には櫻井女学校とも合併し、校名を「女子学院」と改めました。新しい校舎に移転し、矢嶋楫子が初代院長に就任しました。

女子学院はその後発展を続け、1920年（大正9年）には高等部が東京女子大学に統合されましたが、中学校・高等学校は現在も女子学院中学校・高等学校として存続しており、A六番女学校はその重要な礎の一つとして歴史に名を残しています。

エピソード

A六番女学校に関連する興味深いエピソードとして、1874年（明治7年）にこの学校で開かれたクリスマス会で、日本で初めてサンタクロースが登場したとされています。これは、日本の文化史におけるサンタクロース受容の初期事例として語られることがあります。

参考文献

- 『長老・改革教会来日宣教師事典』新教出版社、2003年
- 『日本キリスト教歴史大事典』教文館、1988年
- 高橋昌郎『明治時代のキリスト教』吉川弘文館、2003年

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