JAL再生タスクフォース

JAL再生タスクフォースとは

JAL再生タスクフォースは、2009年9月25日に設置され、同年10月29日に解散した、日本航空（JAL）の経営再建を目的とした国土交通大臣直轄の顧問団です。5名の事業再生専門家で構成され、JALの資産査定と再生計画の策定・実行を担いました。

設置の背景

2009年9月の政権交代（自由民主党から民主党へ）を受け、JALの再建問題は喫緊の課題となりました。前原誠司国土交通大臣は、前政権下の「日本航空の経営改善のための有識者会議」を廃止し、新たに「JAL再生タスクフォース」を設置。政治主導でJALの再生を目指しました。

タスクフォースは、西村あさひ法律事務所やボストン・コンサルティング・グループなどの専門家、JAL社内スタッフを含めた総勢100名以上で構成されました。彼らはJAL本社で再建策を検討しました。

当初、10月末に再生計画の骨子を提出し、11月末に確定させる予定でしたが、債権放棄を巡る銀行団の反発や政府方針の迷走により、計画策定は難航しました。結果として、JALの再建は株式会社企業再生支援機構に引き継がれることとなり、タスクフォースは設置から約1ヶ月で解散しました。

タスクフォースの構成員

JAL再生タスクフォースの構成員は以下の5名です。

高木新二郎（リーダー）: 野村證券株式会社顧問、元産業再生機構産業再生委員長
冨山和彦（サブリーダー・作業統括）: 株式会社経営共創基盤代表取締役、元産業再生機構代表取締役専務
田作朋雄（作業統括）: PwCアドバイザリー株式会社取締役パートナー、元産業再生機構取締役
大西正一郎（作業統括）: フロンティアマネジメント株式会社代表取締役、元産業再生機構マネージングディレクター
* 奥総一郎（作業統括・連絡）: レゾンキャピタルパートナーズ専務執行役員、株式会社ラザードフレールシニアアドバイザー

当初、JALのメインバンクである日本政策投資銀行からも1名が参加予定でしたが、利益相反の懸念から取りやめとなりました。

JAL破綻の経緯

破綻までの背景

JALの経営危機は、1995年頃のアメリカにおける航空自由化に端を発します。格安航空会社の新規参入、企業年金を含む労働債務問題、為替変動や航空燃料価格の高騰などが複合的に影響しました。

アメリカでは、連邦倒産法第11章（日本の会社更生法に相当）を利用して、デルタ航空やユナイテッド航空などの大手航空会社が経営再建を果たしました。しかし、日本では、日本エアシステムが2004年にJALの傘下に入るなど、業界再編が進む中で、JALは労使関係がうまく機能せず、高コスト体質を改善することができませんでした。

タスクフォースの活動と債務超過

「日本航空の経営改善のための有識者会議」が結論を出す前に、政権交代とリーマンショックを機に、前原国土交通大臣が私的諮問機関として「JAL再生タスクフォース」を設置しました。タスクフォースは資産査定と再建案策定に取り組みました。

当初、「JAL再生タスクフォース」が前原国交相に提出する最終報告書では、日本航空の実質債務超過額は7422億円と報じられましたが、国土交通省航空局が最終的に公表した報告書では、債務超過額は9592億円とされました。

破綻処理

2010年1月19日、JALは「JAL再生タスクフォース」の調査結果を受け、企業再生支援機構に再生支援を申請し、即日決定を受けました。この時、JALの2010年3月期の債務超過額は8449億円になると見込まれていました。

前原国交相は、法的整理を選択した理由について、「私的整理では抜本的な再生が先送りされる懸念があった」と説明しました。また、菅直人財務相は、JALの上場廃止について「100％減資は株式会社のルールに則った形だ」と述べました。

JALの再建は、稲盛和夫氏をCEOに据えて進められることになり、西松遙社長は退任、稲盛氏は2月1日にCEOに就任しました。

企業再生支援機構は、JALの債務超過額を当初8676億円（事前報道では8449億円）と発表しましたが、後に約9500億円程度であると公表しました。

一方、JALのコンプライアンス調査委員会は、独自調査の結果、実質債務超過額は7042億円であるとしました。これは、有価証券や固定資産の評価替え、簿外の退職給付引当金不足などによるものでした。

なお、「JAL再生タスクフォース」の費用10億円は、国費ではなくJALが支払いました。

リストラクチャリングと債権放棄

リストラ

JALは、2009年度に国際線13路線、国内線20路線を不採算路線として運休していましたが、さらに国際線15路線、国内線30路線を運休しました。

これに伴い、大規模な人員整理が行われました。希望退職を募ったものの、目標に達しなかった場合は、パイロットや客室乗務員に対して「追い出し部屋」と呼ばれる場所への出勤を義務付けるなどの措置が取られ、最終的には、従業員の3分の1にあたる1万6千人が退職しました。

債権放棄

金融機関との債権放棄については、「JAL再生タスクフォース」が協議を進めていましたが、稲盛新CEOの下で具体的な債権放棄額が合意されました。JALと企業再生支援機構は90%の債権放棄を要請しましたが、最終的に87.5%（3830億円）で合意しました。

また、社債約1000億円やデリバティブなどを合わせて、債権放棄要請額は総額5216億円となりました。さらに、企業再生支援機構から3500億円の公的資金が注入され、新たな経営資本としました。

再上場と影響

再上場

2011年3月28日、JALは東京地方裁判所から会社更生手続終結の決定を受けました。また、3月15日には、取引先8社に対して127億円の第三者割当増資を実施しました。

2012年8月3日、東京証券取引所は9月19日を予定日として、JALの再上場を承認しました。再上場の売出株式数は1億7500万株で、企業再生支援機構が保有する全株式です。

2012年9月19日、JALは再上場を果たし、初値は3810円、時価総額は6900億円となりました。

再上場による影響

JALの再建は、全日空にも影響を与えました。全日空も不採算路線の休廃止や減便を実施し、公募増資によって自己資本を増強しました。しかし、JALの再上場が確実になると、全日空の増資に対してマスコミは批判的な論調を示しました。

また、JALの再上場直前に行われた第三者割当増資について、インサイダー取引の疑いが指摘され、国会でも問題視されました。

再上場後のJALの上位株主は、MORGAN STANLEY & CO.LLC、MORGAN STANLEY & CO.INTERNATIONAL.LPC、GOLDMAN,SACHS & CO.REG、京セラ、日本マスタートラスト信託銀行などとなりました。

まとめ

JAL再生タスクフォースは、短期間ながらもJALの再建に向けた重要な役割を果たしました。その後のJALの再建には、企業再生支援機構、稲盛和夫氏などの尽力がありましたが、タスクフォースの活動はJAL再建の第一歩と言えるでしょう。

JALの再建は、日本の航空業界にとって大きな出来事であり、その後の業界再編にも影響を与えました。この出来事は、企業再生における政府の役割、リストラクチャリングの課題、債権放棄の重要性など、多くの教訓を示唆しています。

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