MIM-3 (ミサイル)

MIM-3 ナイキ・アジャックス

MIM-3 ナイキ・アジャックス（Nike Ajax）は、アメリカ陸軍が運用した地対空ミサイルであり、ナイキミサイルファミリーの最初の実用化モデルとして、アメリカ合衆国の本土防空を担いました。当初の制式名称はSAM-A-7、後にM1と呼ばれていました。

開発の経緯

第二次世界大戦末期の1944年、アメリカ陸軍は高射砲に代わる地対空ミサイルの構想をまとめました。1945年には、ウェスタン・エレクトリック、ベル研究所、ダグラス・エアクラフトなどが共同で開発に着手し、1946年秋からニューメキシコ州のホワイトサンズ射場で実射試験が開始されました。1951年7月までに65発が発射され、部品開発と実証試験が行われました。

1951年10月からはナイキIのフル構成での実証試験が開始され、同年11月27日には69発目のミサイルが空中目標への初飛行に成功しました。弾頭の代わりに少量の爆薬のみを搭載したミサイルは、上空33,000フィート、12マイルを飛行していた遠隔操作のQB-17ターゲット・ドローンから57フィート離れた地点で炸裂しました。1952年4月には、3軍の高官の観閲のもとで実弾による射撃が行われ、いずれも目標の撃墜に成功し、ナイキIの運用能力が実証されました。1953年12月にはフォート・ミード、1954年5月にはボルチモアに高射中隊が配備され、1957年3月には北アメリカ航空宇宙防衛司令部（NORAD）隷下の部隊として認定されました。

開発途中の1947年、陸軍航空軍が空軍として独立した後、局地防衛および野戦防空用の地対空ミサイルは陸軍、地域防空用は空軍が担当することになり、ナイキ・アジャックスは陸軍の管轄となりました。1950年代に入ると、ナイキB（後のナイキ・ハーキュリーズ）やナイキII（後のナイキ・ゼウス）といった他のナイキミサイルと区別するため、ナイキIと呼ばれるようになり、最終的に1956年11月15日にナイキ・アジャックスと改称されました。

1958年にシカゴ地区の部隊にナイキ・ハーキュリーズが配備されたのを皮切りに、アジャックスは順次ハーキュリーズに更新され、全米に130個中隊のハーキュリーズ部隊が配備されました。

設計

ナイキ・アジャックスシステムは、ミサイル本体、捕捉レーダー（LOPAR）、目標追尾レーダー（TTR）、ミサイル追尾レーダー（MTR）、計算機、発射機という6つの主要機能から構成されています。

ミサイル本体

ブースターにはアレゲーニー弾道学研究所 (ABL) のM5固体燃料ロケット（推力246 kN、燃焼時間3秒）、サステナーにはベル・エアクラフトの液体燃料ロケット（推力11.6 kN）が搭載されました。初期にはブースターもベル社が担当し、固体燃料ロケット・モーターを8個束ねて使用していましたが、開発が難航したため、ABLが海軍のバンブルビー計画向けに開発した固体燃料ロケット・モーターが採用されました。

弾頭は、ミサイルの先端部・中央部・尾部に1個ずつ、計3個搭載されており、それぞれの重量は5.44 kg、81.2 kg、55.3 kgでした。近接信管ではなく、地上からの信号によって起爆するという先進的な手法が採用されていました。

システム構成

射撃中隊は、中隊統制地域と発射地域の2か所に分かれて配置されます。固定施設として地下陣地から発射されることもありますが、野戦防空のためにミサイル発射機やレーダー機器が車載式となる場合もあります。

ミサイル発射時には、LOPARが目標を捕捉し、TTRが追尾して目標位置に関するデータを計算機に送信します。ミサイルが発射されると、MTRがミサイルを追尾します。計算機は、これらのレーダーから目標とミサイルの位置データを受け取り、撃墜点を決定してミサイルに指令信号を送信します。

LOPARの周波数はSバンド、出力は1,000キロワット、TTRとMTRの周波数はXバンドで、出力はそれぞれ50キロワットと250キロワットでした。捕捉レーダーは、高射砲用に開発されていたT-33 射撃統制装置（後のM-33）と共用化されました。射撃計算機能は、海軍のMk.33 GFCSから導入されました。

アメリカ陸軍のナイキ・サイト

ナイキ・アジャックスは、アメリカ国内の戦略的・戦術的に重要な拠点を防衛するために配置され、軍事施設だけでなく都市も防衛するために配備されました。1962年までに240の発射サイトが建設されました。ナイキ・アジャックスは、896門のレーダー追尾式対空砲と交代し、特定の重要な拠点を防衛するために陸軍州兵または陸軍が運用しました。少数のM51 75mm高射砲が残されましたが、1957年までに陸軍の対空砲部隊は対空ミサイル大隊に置き換えられました。陸軍州兵は、1958年からアジャックス・システムを採用し始め、同様に対空砲を更新しました。

ナイキの発射サイトは、既存の軍事基地または陸軍州兵兵器庫に配置されました。そうでない場合は、土地を新たに収用する必要がありました。ナイキ・サイトの実際の構成は、地形によって若干異なっていましたが、各々の発射サイトは少なくとも1,000yd（914m）離されて配置された3つの機能区画から構成され、サイトの維持には109人の士官と兵員が必要でした。

Cエリア: IFC（統合火器管制）レーダー・システムを備え、侵入する目標を探知・追跡し、対空ミサイルを指揮・管制します。
Lエリア: 地下ミサイル弾倉を持ち、各々4基の発射機に給弾します。発射命令から発射準備が整うまでの時間によって、待機状態が異なります。
Aエリア: 中隊本部、兵舎、食堂、レクリエーション・ホール及び駐車場など、管理機能が集約されています。

ナイキ中隊は防衛区域ごとに編成され、人口密集地、長距離爆撃機基地、原子力施設、大陸間弾道ミサイル・サイトといった戦略拠点の周囲に配置されました。防衛区域内のナイキ・サイトは、これらの都市と基地の周囲にリング状に配置されました。防衛区域内のナイキ中隊の数は、バークスデール空軍基地防衛区域の最低2個からシカゴ防衛区域の最高22個まで幅がありました。

アメリカ国外での運用

アメリカ合衆国
ベルギー
デンマーク
フランス
西ドイツ
ギリシャ
イタリア
日本
オランダ
ノルウェー
中華民国（台湾）
トルコ

日本での運用

1957年5月に在日米軍の陸軍高射砲部隊が解隊・撤収されることになり、日本は自力での防空体制を構築する必要に迫られました。当時、アメリカ本土ではナイキに加えホーク部隊の整備も進められており、ヨーロッパでもミサイル化の流れが明らかでした。航空自衛隊と陸上自衛隊の間で防空の主導権争いがありましたが、最終的に高高度・長距離SAMは空自、低高度SAMは陸自が担当するという原則が確立されました。

1960年4月にはナイキ供与およびPTG訓練に関する日米政府間の了解覚書が締結され、1963年11月には陸上自衛隊第101高射大隊が編成されました。その後、1964年4月に同大隊は空自に移管され、第1高射群として再出発しました。1971年3月には第1高射群、1972年6月には第2高射群のナイキ・アジャックスがナイキJに換装されました。

参考文献

内場健人「ナイキによる防空組織とその実用性」『兵器と技術』第181号、日本防衛装備工業会、2-9頁、1962年6月。
航空幕僚監部編『航空自衛隊50年史 : 美しき大空とともに』2006年。
西田裕史「航空自衛隊草創期の高射部隊帰属問題についての考察」『安全保障戦略研究』第2巻、第2号、157-173頁、2022年3月。

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