NEOWISE彗星 (C/2020 F3)

NEOWISE彗星（C/2020 F3）

「NEOWISE彗星」として広く知られるC/2020 F3は、2020年に発見された特別な長周期彗星です。正式名称は「C/2020 F3」ですが、発見に使用されたアメリカ航空宇宙局（NASA）の赤外線観測衛星NEOWISEにちなんで名付けられました。過去にもNEOWISEの名前を持つ彗星は存在するため、この彗星を明確に指す場合はC/2020 F3という符号が用いられます。日本では「ネオワイズ彗星」とカタカナで表記されることが多く、その明るさから「2020年の大彗星」とも称されました。

発見とその軌道

C/2020 F3は、2020年3月27日にNEOWISE衛星による観測データから発見されました。その軌道は極端に歪んだ楕円形をしており、太陽系を構成する惑星たちが存在する黄道面に対して約129度という大きな角度で交差しています。この非常に長い楕円軌道から、C/2020 F3は太陽系のはるか外側を取り囲むとされるオールトの雲から飛来した天体と考えられています。

彗星の軌道は、太陽からの距離が大きく変動します。近日点では水星軌道の内側、太陽からわずか約0.29天文単位（約4400万キロメートル）まで大接近しますが、遠日点では約709天文単位（約1061億キロメートル）もの途方もない距離まで遠ざかります。太陽系内部に初めて飛来する前の公転周期は約4,300年と推定されていましたが、2020年の太陽への接近によってその軌道が変化し、現在の公転周期は約6,700年程度まで延びたとみられています。次にC/2020 F3が太陽の近くに戻ってくるのは、現在の最新の軌道要素に基づくと、およそ8700年後のことになると計算されています。

物理的な特徴

NEOWISE衛星が撮影した赤外線画像からの分析により、C/2020 F3の核の直径は約5キロメートルと推定されています。これは、かつて観測されたエンケ彗星（4.8km）や百武彗星（4.2km）といった他の彗星の核よりもやや大きく、この程度の規模の核を持つ彗星は、比較的短い周期で太陽に接近する短周期彗星に多い傾向があります。赤外線と可視光線の観測データを組み合わせた結果、彗星の核の表面は、煤けたような暗い粒子に覆われている可能性が高いとみられています。

また、C/2020 F3は特徴的な尾を持っています。2020年7月13日には、過去にヘール・ボップ彗星やアイソン彗星などの非常に明るい彗星でしか確認されていなかった「ナトリウムの尾」が存在することが発表され、その特異性が注目されました。

2020年の観測

2020年前半には、C/2019 Y4（ATLAS彗星）やC/2020 F8（SWAN彗星）といった他の彗星も明るくなることが期待されていましたが、いずれも近日点通過前に核が崩壊し、予想ほど明るくはなりませんでした。これに対し、C/2020 F3は近日点通過後も核を維持し、長い尾を伴う壮大な姿を見せ、多くの天体観測者を魅了しました。その尾の規模から、C/2020 F3はしばしば1997年に観測されたヘール・ボップ彗星と比較されました。

発見当初の明るさは17等級でしたが、6月頃には肉眼で見える明るさにまで増光しました。2020年7月3日（日本時間では4日）に近日点を通過しましたが、接近前の予測では最大でも約3等級程度と見込まれていました。しかし、近日点通過直前から予想を上回る増光を示し、6月末には0等級から1等級程度の明るさとなり、夜明け前の北東の空低く、尾をなびかせた姿が肉眼でも観測されました。近日点通過直後には、地球から見てダストテイル（塵の尾）が約6度もの長さに伸びているのが観測され、さらに淡い青色のイオンテイル（イオンの尾）も確認されています。日本国内でも、沖縄県の石垣島天文台をはじめ、広い地域でその美しい姿が捉えられました。

7月中旬からは、C/2020 F3は日没後の北西の空に見えるようになり、7月23日には地球から約1億300万キロメートルまで最接近しました。その後、7月下旬にかけて徐々に暗くなり、8月下旬には肉眼での観測が困難になると予想されていました。

宇宙からの観測

地球からの観測だけでなく、宇宙からもC/2020 F3の姿は捉えられました。6月22日から27日にかけては、太陽観測衛星SOHOのコロナグラフ画像の視野内に写り込み、その頃には明るさが3等級よりも増していました。

国際宇宙ステーション（ISS）に滞在していた宇宙飛行士や、太陽探査機のパーカー・ソーラー・プローブ、太陽観測衛星STEREOからも、尾をなびかせるC/2020 F3の姿が撮影されています。特に、パーカー・ソーラー・プローブ搭載の観測装置WISPRで捉えられた画像からは、ダストテイルとイオンテイルが観測され、さらにイオンテイルが二方向に分かれている可能性も示唆されました。

C/2020 F3は、2020年における最も印象的な天体現象の一つとして、多くの人々に感動を与えました。その長い周期から、次にその姿を見ることができるのは遥か未来のこととなります。

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