OLPC

OLPC（One Laptop per Child）とは

OLPC（One Laptop per Child）は、2014年まで活動していた、マサチューセッツ工科大学のニコラス・ネグロポンテ氏が中心となって設立したNPO（非営利団体）の財団です。特に、開発途上国の子どもたちへの教育機会の提供を目指し、革新的な教育理論に基づいた学習手段を提供することを目的としていました。一般的には、「100ドルノートPC」として知られるノートパソコン「OLPC XO-1」の開発で広く知られています。現在、ブランドの管理は、マイアミに拠点を置くOLPC協会によって行われています。

活動の概要

OLPCは、世界中の子どもたち、特に開発途上国の子どもたちに、教育の機会を提供することを使命として活動していました。そのために、ハードウェアとして「XO」というラップトップを開発し、ソフトウェアには「Sugar」という親しみやすいユーザーインターフェースを採用しました。また、教育コミュニティを繋ぐメッシュネットワークや、学習コンテンツ、スクールサーバの開発なども行っていました。これらの活動は、世界中のボランティアの協力によって進められました。

特に「100ドルパソコン」として知られる「XO」は、持ち運びを前提とし、場所を選ばずに「学校」として機能するように、高い耐環境性と低消費電力に配慮して設計されました。しかし、OLPCの主な目的は、ラップトップの開発そのものではなく、あくまでも子どもたちへの教育機会の提供であり、情報格差の解消は副次的な目的でした。ネグロポンテ氏は、「教育プロジェクトであって、ラップトップ開発プロジェクトではない」と明言しています。

製造は台湾のクアンタ・コンピュータに委託され、2006年に評価用の試作機が完成、2007年にはウルグアイやブラジルなどの子どもたちに配布され、テストが行われました。当初の価格は130ドルから140ドル程度でしたが、2008年末までに100ドルに低価格化することを目指していました。2007年時点でのコストは175ドルでした。

主な配布対象は、開発途上国政府を通じた現地の小学生でした。しかし、一般ユーザーにもeBayを通じて450ドルで販売し、その収益でより多くのパソコンを寄付するアイデアも検討されました。2007年11月には、「Give One Get One」プログラムが2週間限定で開始され、アメリカとカナダの一般ユーザー向けに、2台400ドルでOLPCのホームページで通信販売が行われました。このプログラムでは、1台は途上国に寄付され、もう1台はユーザーに届けられました。

「Give One Get One」プログラムは、1日あたり200万ドルの寄付金を集めることに成功し、当初予定されていた2007年11月23日を過ぎて、同年12月31日まで延長されました。さらに、大量注文の場合の値引きも発表され、政府や教育機関向けに、100台から999台は1台300ドル、1000台から9999台は1台249ドル、10000台以上は1台199ドルで販売されました。また、「Give One Get One」プログラムは、2008年にも実施され、2007年がアメリカとカナダに限定されていたのに対し、2008年はアマゾンなどの流通大手の協力により、より広範囲の国々への通信販売が可能になりました（ただし、日本は対象国に含まれませんでした）。

歴史

OLPCの活動は、シーモア・パパートが提唱した構成主義学習理論、アラン・ケイの業績、そしてニコラス・ネグロポンテの著書『ビーイング・デジタル』に記された原理に基づいています。創設には、Google、ニューズ・コープ、AMD、レッドハット、ブライトスター、ノーテルなどの企業が協力し、それぞれ200万ドルを寄付しました。これらの企業と3人の個人が、OLPCの活動を主導しました。

OLPCの「XO」は、教育市場をターゲットにした1997年の「eMate 300」（Apple Newtonをベースとした）と類似する点がありますが、直接的な繋がりはありません。Appleは、Mac OS XのOLPC版を開発し無償提供することを申し出ましたが、採用されませんでした。

2005年11月16日、ネグロポンテ氏は、チュニジアのチュニスで開催された世界情報社会サミットの第2フェーズにおいて、ノートPCの2つのプロトタイプを発表しました。一つは動作しない模型で、もう一つは外部の基板とキーボードを使用した未完成版でした。これらの試作品は、一般的な基板を使用した粗削りなものでした。ネグロポンテ氏は、ディスプレイの開発には3ヶ月以上かかると予測しました。最初の動作するプロトタイプのデモは、2006年5月23日に開催された「Country Task Force Meeting」で行われました。製品版では、同じサイズの筐体に、より大きなディスプレイが搭載されると期待されました。ノートPCの出荷は、2006年末から2007年初めの予定でした。

2006年、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで、国連開発計画（UNDP）が、この計画を支援することを公式に発表しました。UNDPは、「発展途上国の特定の学校に対する技術と資源」を提供するために、OLPCと共同で作業を行うと表明しました。

2005年12月13日、OLPC理事会は、100ドルノートPC計画のODM（Original Design Manufacturer）として、クアンタ・コンピュータを選定したことを発表しました。この決定は、理事会が複数の製造企業による入札を審査した結果によるものです。クアンタ・コンピュータは、まだ多くの課題が残っていることを強調し、「まだ膨大な量の研究と開発が必要であるが、うまくいけば、2006年の後半には最初の完成品を製造する準備が整うだろう」と述べました。その後半年間、クアンタ研究所のチームは、100ドルノートPCの開発に注力しました。

2015年2月、OLPCからスピンアウトしたオーストラリアの団体One Education Foundationが、モジュラー型の子供向けタッチパネル搭載の低価格PC「Infinity」の計画を発表しました。2015年11月現在、20台以上の場合、1台あたりUS $239で早期予約を受け付けていました。2019年9月現在、「Infinity:One」は、Windows 10 Pro EducationとMicrosoft Officeを搭載して$330で販売されています。

価格について

当初、この計画は100米ドルを目標としていましたが、2006年5月、ネグロポンテ氏は、レッドハットの年次ユーザサミットで、「価格は変動的だ。我々は非営利団体である。2008年までに100ドルにすることを目標としているが、おそらく135ドル、あるいは140ドルになるかもしれない。ただし、これは最初の価格であって、必要なのは出荷の度に安くすることだ。価格は下がることを約束する」と発言しました。しかし、2007年9月の時点で199ドルと、当初の予定を大幅に上回る価格となり、2008年までに100ドルという目標は達成できませんでした。2009年12月の時点でも172ドルでした。

アプリケーション

「XO」には、Pythonで記述された「Sugar」という独自のグラフィカルユーザーインターフェースが搭載されています。このインターフェース上で、アクティビティと呼ばれるアプリケーション群が動作します。「Sugar」は、メッシュネットワークを介したコラボレーションを前提に設計されており、複数の子どもたちが同じアクティビティに参加し、共同で作品を制作することができます。アクティビティには、ウェブブラウザ、ワードプロセッサ、ペイントツール、「Squeak Etoys」などが用意されています。

ウィキペディアとの提携

2006年8月4日、ウィキメディア財団は、ウィキペディアから選ばれた記事がOLPCに収録される予定であることを発表しました。ウィキメディア財団の理事長であるジミー・ウェールズ氏は、「OLPCの使命は、我々の目的である百科事典の知識を、無償で、世界中のあらゆる人々に配布することと手を携えていくことになるだろう。まだ世界中すべての人がブロードバンドな接続を持っているわけではないのだ」と話しました。ネグロポンテ氏は以前から、100ドルパソコン上でウィキペディアを見たいと考えていました。ウェールズ氏は、ウィキペディアが「キラーアプリ」の一つであるとの意見を示しました。

参加国

ネグロポンテ氏の広報によると、以下の国々がさまざまな形で提携しています。ただし、この提携に強制力はなく、パソコンは各国政府向けに販売され、「One Laptop Per Child（子ども一人に一台のノートパソコン）」という理念のもと、教育関係の省庁を通じて配布されます。

ブラジル
タイ王国
エジプト
アメリカ合衆国（特にマサチューセッツ州とメイン州）
カンボジア
ドミニカ共和国
コスタリカ
チュニジア
アルゼンチン
ベネズエラ
ナイジェリア
リビア

マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー氏は、州内のすべての児童に100ドルPCを配布する法案を州議会に提出しました。ナイジェリアは、100万台の注文を決定した最初の国です。

2006年10月11日、ニューヨーク・タイムズ紙は、OLPCがリビア国内の全120万人の生徒にパソコンを供給することでリビア政府と合意に達したと報じました。この2億5000万ドル（日本円にして約300億円）の契約には、衛星によるインターネットアクセスの整備、学校ごとのサーバー、技術的なサポートも含まれていました。

インドは、「公的資金が、様々な政策書に記載されている確実に必要な施策にさえ足りない状況が続いているのに、議論の余地もある計画に対するこの規模の支出は容認できない」として、計画への参加を断念しました。

OLPCは、当初、100ドルPCを各国政府を通じてのみ販売することを計画していましたが、ネグロポンテ氏は、知名度の高い製造業者が商用製品を作ることに提携してもよいと発言しました。225ドル程度で販売することができれば、発展途上国への物品支援になるはずです。

2013年には、アマゾン川流域奥地のペルーの子どもたちへの配布プロジェクトに関する番組が制作され、2015年10月にNHKで放送されました。この番組には、ネグロポンテ氏やジミー・ウェールズ氏、アメリカ政府やGoogleなど、多数の関係者がインタビュー出演しています。

量産によって価格を100ドルまで下げ、数億台規模の普及を目指していましたが、2024年現在、提供された台数は合計で300万台強にとどまっています。

XO-1

「XO-1」は、オペレーティングシステムにLinuxを採用し、フルカラーの液晶ディスプレイを搭載したノートパソコンです。本体は頑丈で、自己発電が可能であり、無線LAN、IP電話、タッチパッドなどを備えています。

設計要件

開発責任者のマリー・ルー・ヨプセン氏は、ハードウェアの設計方針について以下のように述べています。

最小限の電力消費: 設計目標は、全消費量で2ワットから3ワット（実際には、8Wと大幅に大きな消費電力になりました）。
最小限の製造コスト: 目標は、100万台の製造時に1製品あたり100ドル（2007年時点で199ドル、2009年12月時点で172ドルと、大幅に高価になりました）。
かっこいいデザイン: 一目でその革新性がわかるようなデザインにする。
電子書籍の機能: きわめて低い電力消費で電子書籍の機能を実現する。
オープンソースソフトウェア: ソフトウェアはオープンソースとフリーソフトウェアを使用する。

ソフトウェアの設計要件や教育での具体的な利用方法は、OLPC Wikiに記載されています。MITメディアラボは、Design ContinuumとFuseprojectの支援を受け、さまざまな利用形態を検討しています。例えば、ノートパソコン、電子書籍、映画館、シミュレーション、絵画用タブレットなどとしての利用が考えられています。

仕様

オペレーティングシステム: 初期にはFedora 9をベースにしたOLPC OSが使用されました。2016年3月現在、Fedora 18ベースの最新版release 13.2.7が利用可能です。
電源: 電力サービスを利用できない地域でも使用できるように、人力による電源供給装置を採用。手動ハンドルや外付け足こぎペダルなどが検討されましたが、現在では紐を引いて発電する方式が有力です。
無線LAN: 無線LAN通信装置を搭載し、アドホックネットワークなどでインターネットに接続可能。マシン同士でモバイルアドホックネットワークを構成し、1つのインターネット接続を共有することができます。
ストレージ: ハードディスクの代わりに1GBのフラッシュメモリーを採用。
CPU: Geode LX-700（433MHz）を採用。

XO-2

「XO-2」は、2画面式のノートパソコンとして開発されましたが、計画は中止されました。

XO-3

「XO-3」は、OLPCプロジェクトの一環として開発されたタブレット/eブック端末でしたが、2012年11月に開発が中止され、「XO-4 Touch」に置き換えられました。「XO-2」の開発中止を受け、タブレットコンピュータとして設計されました。内部の動作は「XO 1.75」と同じARMプロセッサを使用しています。また、タブレット端末の計画は、通常のAndroidを採用した「XO Tablet」に置き換えられました。

「XO-3」は、8インチ、4:3の1024 x 768解像度のディスプレイと、マーベル・テクノロジー・グループのMarvell Armada PXA618 SoCを搭載しています。手回し発電機や太陽電池などの革新的な充電方法に対応するとされていました。

「XO-3」タブレットは、2012年に100ドル以下の価格で販売される予定でした。2012年1月には、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー（CES）でBBCニュースの技術番組で、XO-3と太陽電池、手回し発電機のオプションが公開されました。

OLPC Tablet

7インチの液晶画面を備えたAndroid端末。従来は「XO Tablet」と呼ばれていました。

XO-4 Touch

2015年11月現在、最新のOLPC環境です。2012年9月から開発され、2013年のCESで初披露されました。Dual CoreのARMv7アーキテクチャCPU、Marvell PJ4を搭載し、Fedora 18ベースのOSを採用しています。2点まで対応可能な新しいタッチスクリーンを搭載しています。2019年6月時点で在庫のみとなっています。

XO-NL3 Laptop

2016年10月から生産が始まった、16:9のスクリーンを備えた新世代のXO Laptopです。

仕様

オペレーティングシステム: Ubuntu 18.04, Sugar 0.113。
無線LAN: IEEE802.11n対応。
ストレージ: 32GB eMMC。
CPU: Celeron N2940(Quad Core)。

Infinity Laptop

仕様

オペレーティングシステム: Ubuntu 18.04, Sugar 0.113。
無線LAN: IEEE802.11ac対応。
ストレージ: 64GB eMMCまたは128GB SSD。
CPU: Celeron N4000(Dual Core)またはCeleron N4100(Quad Core)。

関連項目

脚注

外部リンク

* 公式サイト（英語）

もう一度検索