SNG (放送)

SNG（衛星ニュースギャザリング）とは

SNG（Satellite News Gathering）は、通信衛星を利用して、テレビニュースをはじめとする放送番組の素材を収集・伝送するシステムです。具体的には、放送局外の撮影現場から映像や音声を電波で通信衛星に送り、放送局へ伝送します。これにより、事件や事故現場からの生中継も可能になります。

背景

ニュースにおいて、速報性と同時性は非常に重要です。テレビ放送は、その規模の大きさからラジオに比べて速報性に劣る面がありました。しかし、ENG（Electronic News Gathering）の導入により、フィルムカメラからビデオカメラへの移行が進み、テレビニュースの速報性は飛躍的に向上しました。

可搬型の小型多重マイクロ波送信機（FPU）の登場も、現場からの映像・音声伝送を容易にしましたが、マイクロ波の伝送ルート構築には手間と時間がかかります。マイクロ波は直進性が強く、見通し範囲でしか伝送できないため、山間部などでは中継点を多数設ける必要がありました。そのため、突発的な事件や災害現場からの迅速な中継は困難でした。

SNGによるテレビ報道の飛躍

通信衛星を利用することで、地上の中継点を設ける必要がなくなり、日本国内であればどこからでも映像・音声を伝送できるようになりました。通信衛星へのアクセスには、指向性の高いアンテナを使用するため、アンテナの南側に障害物がなければ、容易に通信が可能です。また、通信衛星からの電波は日本各地で同時に受信できるため、僻地の災害現場からでも、迅速に全国へ情報を配信できます。

SNGは、テレビによる事件、事故、災害報道に革命的な進歩をもたらし、現代の放送技術において不可欠な存在となりました。

SNGの導入と運用形態

1980年代に入り、地球局の設備が小型化し、自動車に搭載可能な「可搬地球局」が登場したことで、SNGの導入が急速に進みました。

日本では、電波法の規定により、SNGで使用する通信衛星との通信は、電気通信事業者しか行えません。そのため、放送会社は電気通信事業者と契約し、その名義で地球局の免許を受け、通信サービスの提供を受ける形態をとります。

通信衛星に搭載できるトランスポンダ（トラポン）の数には限りがあり、SNGに使用できる回線数は限られています。また、通信衛星の打ち上げや維持管理には莫大な費用がかかるため、放送会社は回線使用料として経済的な負担を強いられます。

そこで、放送系列各社はトラポンを共同所有し、効率的に共同利用するための統制センターを設け、トラポンの運用を一元管理しています。これにより、系列各社は必要な番組素材を最小限の時間で伝送できます。

当初、SNG回線はアナログでしたが、トラポンの有効利用のため、「ハーフトラポン」と呼ばれる方式が採用されました。これは、1つのトラポンの伝送帯域を2分割して運用することで、2つのチャンネルを得る方式です。その後、効率化や傍受対策のため、回線は全てデジタル化されました。

SNGには、番組素材を伝送する本線とは別に、連絡用の回線（OW回線）があり、これを用いて放送局と現場との連絡を行います。しかし、この回線は本線と同じトラポンを経由するため、使用できる時間が限られています。そのため、緊急時には、携帯電話などが利用されるようになりました。

SNGによる中継放送では、スタジオと現場のレポーターが会話を行う際に、「N-1音声」が用意されます。これは、番組用音声から現場の音声を除いたもので、レポーター自身の声が遅れて聞こえるのを防ぐためのものです。

SNGの多様化

近年、SNGは高機能化し、運用形態も多様化しています。可搬地球局の小型化により、ラジオニュースにも活用されるようになり、SNG中継車1台で複雑な番組素材制作が可能になりました。また、衛星自動追尾技術の実現により、移動中継車としての利用も期待されています。

ハイビジョン対応

SNG回線は、1997年頃からデジタル化され、1つのトラポンで4チャンネルの同時運用が可能になりました。高精細度テレビジョン放送用番組素材の伝送においては、新伝送路規格DVB-S2により、再び1つのトラポンで4チャンネルの同時運用が可能になっています。

IP-SNG

近年、VSATシステムを用いたIP-SNGと呼ばれる新しいタイプのSNGが登場しています。これは、現場から通信衛星に向けて番組素材を送信し、放送局はインターネット経由で素材を受け取る方式です。IP-SNGは、機動性が高く、人員配置が容易であるという特徴があります。

今日のSNGは、テレビニュースのみならず、ラジオニュース、スポーツ中継など、多岐にわたる分野で活用され、放送業界において不可欠な技術となっています。

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