TOI-178

概要

TOI-178は、地球から約205光年離れたちょうこくしつ座の方向にある恒星です。この恒星の特筆すべき点は、その周囲に6つの太陽系外惑星を持つ惑星系が確認されていることです。この惑星系は、特に外側の5つの惑星が互いに規則正しい軌道共鳴の関係、中でも発見されている中で最も長い連鎖共鳴の一つを形成していることで知られています。また、惑星間の密度のばらつきが大きいことも、この系の際立った特徴です。TOI-178は比較的地球に近い位置にあるため、詳細な観測が進められており、惑星系がどのように形成・進化するのかを理解するための貴重な研究対象となっています。

恒星の物理的特性

TOI-178恒星自身は、K型主系列星に分類され、質量・半径ともに太陽の約65%程度と推定されています。年齢は約71億年と、太陽（約46億年）より古い天体です。この恒星は、TIC 251848941や2MASS J00291228-3027133といった複数のカタログ名でも知られています。

惑星系の発見と特徴

TOI-178の惑星系の発見は、複数の国際的な観測プロジェクトの連携によって実現しました。まず、NASAのトランジット系外惑星探索衛星 TESSが最初の兆候を捉え、TOI-178.01、TOI-178.02、TOI-178.03という3つの惑星候補を特定しました。これらの候補は2018年にTESSによって検出され、初期の27日間の観測期間中に複数回のトランジットが観測されました。TESSが示唆した興味深い軌道配置を確認し、より精密なデータを得るため、ESAのCHEOPS 衛星や、チリのVLTに搭載されたESPRESSO、NGTS、SPECULOOSといった地上観測施設による追跡観測が行われました。これらの観測の結果、最終的にTOI-178の周囲には合計6個の太陽系外惑星が存在することが確定し、IAUの規則に基づきTOI-178 bからgの名称が付与されています。

検出された6惑星は、主に恒星の光度変化を捉えるトランジット法によって発見されました。これらの惑星は、恒星のハビタブルゾーン（液体の水が存在しうる温度範囲の軌道領域）より内側に位置すると示唆されています。最も外側の惑星gでも、計算上の平衡温度は約470K（摂氏約197度）と推定される比較的高い温度です。惑星の種類としては、内側2個（TOI-178 bとc）は地球より大きな岩石惑星、いわゆるスーパーアースに分類され、外側4個（TOI-178 d、e、f、g）は海王星より小型のガス惑星、ミニネプチューンと考えられています。

軌道共鳴の詳細

TOI-178系の最も注目すべき点は、外側の5個の惑星（c、d、e、f、g）が形成する連鎖的な軌道共鳴です。公転周期はbが約1.91日、cが約3.24日、dが約6.56日、eが約9.96日、fが約15.23日、gが約20.71日となっています。惑星cからgにかけての公転周期の比は、およそ2:4:6:9:12、あるいはその逆数の整数比18:9:6:4:3という、非常に規則正しい連鎖を形成しています。これは、例えば惑星cが18周する間にdは9周、eは6周、fは4周、gは3周するという、特定の周期で軌道が整列することを示唆します。このような複数の惑星が連鎖的に共鳴関係にある状態は宇宙でも稀であり、惑星系が初期に円盤ガスの中で安定した軌道配置を確立したことを強く示唆するものです。

一方、最も内側の惑星bは、この美しい連鎖共鳴の系列には直接参加していません。ただし、その公転周期（約1.91日）は惑星cとの間で約3:5の軌道共鳴に近い位置にあります。TOI-178系は、かつてはbを含む全てがより長い連鎖共鳴の関係にあった可能性も理論的に提唱されていますが、その後の恒星との潮汐作用などにより、最も内側の惑星bがその初期の安定した共鳴関係から弾き出されたのではないか、と推測されています。

観測の重要性

TOI-178系は、地球からの距離が近いことと恒星が比較的明るいことから、詳細な追跡観測が容易です。特に、トランジット現象を利用した精密観測が中心的な役割を担います。今後、惑星のトランジットが起きるタイミングのわずかなずれ（トランジットタイミング変化法、TTV法）を分析することで、各惑星の正確な質量決定が期待されています。質量と半径が分かれば密度が計算でき、それぞれの惑星の内部構造や組成に関する詳細な情報が得られます。この系で観測されている密度の大きなばらつきも、今後のTTV観測で解明されると期待されています。

連鎖軌道共鳴という極めて安定した軌道配置と、対照的な惑星間の密度の大きな多様性を持つTOI-178系は、惑星がどのように形成され、時間とともに進化するのかという、惑星科学における基本的な疑問に答えるための貴重なケーススタディを提供します。太陽系外で6個の惑星を持つ系は多くありませんが、TOI-178系の他に、ケプラー11、ケプラー20、HD 40307などが知られています。

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